【デュッセルドルフ(ドイツ)20日=峯岸佑樹】柔道の東京オリンピック(五輪)代表選考会の1つ、グランドスラム(GS)デュッセルドルフ大会は21日、当地で開幕する。

男女9階級の1番手が出場し、今大会の結果を踏まえ、27日の全日本柔道連盟(全柔連)の強化委員会で複数の五輪代表が決まる見込み。大会第1日の女子52キロ級で、18、19年世界選手権連覇の阿部詩(19=日体大)が、優勝で文句なしの五輪切符をつかみ取る。

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柔道界のヒロインが、夢舞台につながる大一番を迎える。阿部詩は大勝負を前に「自分の柔道を出し切り、勝ち切るだけ。目の前の1戦1戦に集中して、重圧を力に変えたい」と闘志を燃やした。

昨年11月のGS大阪大会決勝で、世界ランキング1位で4戦全勝していたブシャール(フランス)に敗戦。何度も技を受け「負けるかも」と頭がパニックになり、冷静さを失った。対外国勢49戦目にして初めての黒星は、五輪切符確定を逃す、痛恨の1敗となった。「最後は気持ちの弱さが出た。五輪レースがこんなに過酷なんだと思い知った。神様からの試練だと思って、前に進みたい」。大粒の涙を流してこう言った。

兵庫・夙川学院高1年時の全国高校総体1回戦敗退など、これまでも涙を成長の糧にしてきた。数年に1回の負けを経験することで、自身をリセットし「挑戦者」としての強い気持ちが芽生える。敗戦映像を何度も見返し、敗因を追求して柔道の幅を広げる。GS大阪大会からの3カ月間も、重圧の中で襟と袖を持って相手を追い詰める形を反復した。「あの時の負けがあって良かったと言えるように、心技体を磨きたい」。因縁の相手への雪辱を果たし、さらなる進化を誓う。

全柔連は大会後の27日に都内で強化委員会を開き、1番手と2番手の差が大きい階級については代表を決定する。世界選手権2連覇中の阿部詩は、上位に進めば選出はほぼ確実な情勢だ。デュッセルドルフは、17年に国際柔道連盟(IJF)のワールドツアーを史上最年少の16歳で制した地でもある。負けず嫌いの19歳は運も味方に、兄一二三との五輪金メダルへ、大きな一歩を踏み出す。

◆阿部詩(あべ・うた)2000年(平12)7月14日、神戸市生まれ。5歳で柔道を始める。兵庫・夙川学院高-日体大。17年世界ジュニア選手権優勝。18、19年世界選手権優勝。世界ランキング4位。右組み。得意技は袖釣り込み腰と内股。座右の銘は努力なくして成功なし。好きな食べ物は焼き肉。趣味はカラオケ。158センチ。