「ブレトシュナイダー、成功!」。

体操のテレビ中継などを見ていると、おそらくこんな実況を聞くことが多くなったのでは。

内村航平(32=ジョイカル)が種目別の鉄棒に絞って東京五輪を目指す挑戦を昨夏に決めたことで、鉄棒の技についての固有名詞が放送に乗ることが多くなった。

「ブレトシュナイダー」は難度で言えば、A難度から数えて8番目の難しさ。世界で数人しか成功者がいない大技だが、内村の鉄棒は続けてカッシーナ(G難度)、コールマン(E難度)と離れ技が続く。演技を見るにあたり、どこに注目して見ればおもしろいだろうか。

18日に閉幕した全日本選手権の取材で、内村のコーチを務める佐藤寛朗さん(32)が、説明してくれたので紹介したい。

「細かい部分ですが、(鉄棒に)ぶらさがって脱力したときに大きく見えること。しっかり、肩から抜けて長く体が伸びている状態で、大きく回るというのが本人のポイントですね」。鉄棒からぶら下がった時に、体が伸びきっているかどうか。それが成功につながる1つの目安だという。

内村本人が、注意点に上げていたのは「車輪」だった。腕を伸ばして、体を振ってバーを中心に回転させて離れ技につなげる基本中の基本の動き。大技の成功可否を左右するのは、やはり基礎的な部分だと結論に行き着いたという。

「どうしても(離れ技で)バーを持とうとすると、小さくなる。バーの下でどうやって力を抜けるか」。離れ技は高さ280センチ、金属の配合で硬さを調節された直径2・8センチの円柱型の鉄の棒をしならせ、反動で空中に身を投げ出す。ほぼ視界がないため、どうしてもバーに近づいてキャッチしたくなる心理が働く。すると、手がわずかに折り曲がり、車輪は小さくなる。

輪を大きく回すためにこそ、ぶら下がった時に「長く体が伸びている」ことが必要で、佐藤コーチは常にそこを注視している。伸びるようにするために2人でストレッチも入念。上半身と下半身をつなぐ、いわゆるインナーマッスルの「腸腰筋」を伸ばし、準備を進める。

昨年末の全日本選手権と、先日の全日本選手権。計4回の演技ですべて離れ技を成功させている内村。「種目から声が聞こえているかのような境地にはいけていると思う、器具の声を聞きながら、その日の自分の体調に合わせてやってる感覚があって、器具とタイミングがかみ合ったときは非常に良い演技ができる。合わないとそっぽ向かれるし、その辺は鉄棒とうまく対話しながらあわせていっている」と語る。

新たな深みを知り、見ている側にも新たな境地を届けている。次戦は5月のNHK杯(長野)。バーからぶら下がる体が伸びているかどうか、車輪が大きく回っているかどうか。そこを見れば、より深く楽しめそうだ。【体操担当=阿部健吾】