14年ソチ、18年平昌オリンピック(五輪)2連覇王者で、今年7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が「第七十回菊池寛賞」を受賞し、2日に都内で行われた贈呈式にビデオメッセージで登場した。

青森県内でアイスショーに出演のため贈呈式は欠席。約5分間の動画で喜びを伝え、今後の意気込みも語った。コメント全文は以下の通り。

 

このたびは栄誉ある賞に選んでいただき、大変恐縮でありますし、同時に、この賞に恥じないよう、より一層努力を重ねていかなくてはと、身が引き締まる思いです。

私の人生は28年弱になりますが、そのほとんどが夢への道でした。希望と絶望の、連続でした。4回転半ジャンプを習得しようとする前はオリンピックの連覇が夢でした。スケートを始めたのは4歳の頃でしたが、始めてまもなくオリンピックの連覇を夢見て過ごすようになりました。

オリンピックで勝つためには4回転ジャンプを成功させなくてはなりませんでした。4回転ジャンプの前はトリプルアクセルや3回転ジャンプ。その前には2回転ジャンプや1回転ジャンプがありました。それら1つ1つが目標であり、夢でした。

今だと1回転ジャンプなんてとても簡単そう、と思われるかもしれませんが、毎日の練習の中で成功する日も、失敗しかない日もありました。むしろ失敗の日の方が多かったように思います。やっとできるようになったと思ったら、その10秒後にはもうできなくなっていて。それから10日以上も成功しない日もありました。

4回転ジャンプでは1カ月に1回、成功するかしないかという時期もありました。成功すれば、また失敗する。失敗を繰り返して、その果てに成功が待っているのかと言われたら、それだけではありませんでした。実際は失敗しかないことのほうが多いように思います。失敗しても、また失敗しに行く。それを繰り返して、それでも諦めずに何度も挑みました。

私はオリンピックで連覇、という夢をかなえました。そして私は、オリンピックで4回転半ジャンプ、という夢をつかみ取ることができませんでした。その時私は、報われない努力もある、ということを感じました。そして、今までの努力の日々は無駄な日々だった、とも思いました。

夢はかなうわけではありません。努力が実るわけではありません。頑張ったところで、夢がかなう人は本当に限られた人だけです。社会の理不尽によって、諦めることもあると思います。自分自身を守るために、諦めることもあると思います。

期待される夢も、期待されない夢も、誰にも伝わらない気持ちも、誰にも届かない日々も、ただ同じように過ぎ去っていく日々も、ただ苦しみを味わい続ける日々もあると思います。夢がかなったと思われている人もきっと、その夢のために諦めて、捨ててきたことばかりだと思います。

私の人生は、たくさんの選択の連続でした。その選択が全て正解だったかどうかは分かりません。どんなに悩んで考えたとしても、選択肢にはするか、しないか、しかありません。その2択の積み重ねで、選ばれてきた今が、正解なのか不正解なのか分かりません。

ただ私は、その全ての選択に意味を持たせたいと思っています。たとえその選択によって失敗したとしても、ケガをしたとしても。何かを得ては、失うばかりの日々に、意味を持たせようと思ってきました。その時には意味がないように思えたとしても、いつか振り返ったときに意味があったんだと思えるように、生きていきたいと思っています。

挑戦は、まだ続きます。まだまだ、続けます。これから先の選択も、たくさん迷い、悩むと思います。この選択があったから、未来があるんだと思えるように今を選び続けます。このたびは、本当にありがとうございました。これからもより一層、頑張り続けます。