16年リオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介氏(28)が、4日開幕の日本選手権(東京アクアティクスセンター)の展望を語った。
7月の世界選手権福岡大会の代表選考を兼ねた日本一決定戦で「キング・オブ・スイマー」が注目する種目、選手は? 本紙で日本選手権を解説する萩野氏に見どころを聞いた。【取材・構成=益田一弘、田口潤、松本航】
日本選手権は、世界選手権の代表選考を兼ねています。今回は自国開催の福岡。従来に比べて、代表入りのハードル=派遣標準記録が下がりました。自国開催で日本の選手が少なくなれば、確かに寂しいもの。ただ日本の選手にとって出場のハードルが下がっても、世界大会で表彰台のタイムが落ちるわけではない。金メダルのタイムも落ちない。だから派遣標準記録をクリアすることをゴールにしてほしくない。今回の記録を切って代表に選ばれても、本番では予選落ちで終わることも十分ありえる。福岡は、実質的にパリに向けた前哨戦です。出場とともに、先を見据えてほしい。
初日は女子100メートルバタフライに注目です。派遣標準記録が57秒92。池江璃花子選手はうまくレースを運べばクリアできる可能性がある。今はスタートで少し出遅れて、本来は15メートルまで潜っているところを10メートルで浮き上がる傾向がある。泳ぎでカバーできているが、無理をしてしまうと最後の5メートルでつまるという展開が予想される。ただもともと自己ベストは56秒08。復活の途上ですが、テクニック面は以前と変わっていない。そして彼女はやはり本番で強いイメージがある。
57秒92のタイムは、絶妙です。自己ベスト58秒00の選手が勢いあまって切れる可能性は薄い。57秒98ならば勢いで切れることもあるが、57秒92は難しい。
例えば、私が200メートル個人メドレーで最初のバタフライ50メートルを泳ぐとします。だいたい24秒7~8台を目安としていましたが、25秒1台までかかると「ちょっとスピードが出てない」と体の感覚でわかる。逆に24秒5~6台だと相当速い。速い時と遅い時の差は50メートルで0秒50。この差はとても大きい。日常生活で例えれば、朝7時5分の電車に乗るつもりが、6時50分に乗ってしまったという感覚。電車を1本の違いではなく、2~3本は違う。女子100メートルバタフライで0秒10の差は、電車1本分の違いがあるといえます。
男子200メートルバタフライ(6日)の本多灯選手は泳ぎが安定していて、力も抜けている。日本記録(1分52秒53、瀬戸大也)も更新できる可能性がある。この種目は世界記録が1分50秒34(ミラーク)。近づくことは簡単ではないが、まずはこのタイミングで記録を出せれば、福岡へのいいステップになる。
日本のお家芸である男子200メートル平泳ぎ(7日)はレベルが高い。メンバーが強力で、柔道の代表選考会のようです。誰が勝っても、五輪でメダルをとれる選手がいく。元世界記録保持者の渡辺一平選手は復調気配です。パリ五輪にはしっかりと合わせてくると感じます。
派遣標準記録が下がったことで、多くの代表選手が誕生するでしょう。新しく世界の舞台を経験する選手が、結果を出すことも、悔しい思いをすることも、いい経験になる。ぜひ代表になる選手たちを応援してください。(16年リオデジャネイロ五輪金メダリスト)
◆世界選手権代表選考 個人種目は出場枠2。日本選手権の決勝で、日本水連が設定した派遣標準記録を切って2位に入れば代表決定。同記録は東京五輪に比べて男女28種目中19種目(五輪種目)でタイムが遅くなった。東京五輪は世界大会決勝進出相当(8人)だったが、今回はパリ五輪に出場できる参加標準記録(30人超)を採用している。日本選手権決勝=一発勝負で高い記録をクリアするという厳しさが、近年の競泳界の隆盛を支えてきた。今回は、多くの選手に自国開催の世界選手権を経験させるために、従来よりもハードルを下げる形となった。
◆パリ五輪への道 日本水連は、7月の世界選手権福岡大会で金メダルを獲得した選手を、五輪代表に内定することを決めている。来年3月の日本選手権に出場することが条件。19年世界選手権韓国大会では瀬戸大也が個人メドレー2冠を達成し、東京五輪2種目での内定をつかんでいる。
◆萩野公介(はぎの・こうすけ)1994年(平6)8月15日、栃木県生まれ。作新学院高-東洋大-ブリヂストン。五輪は12年ロンドンで銅、16年リオで金銀銅、21年東京は200メートル個人メドレー6位。同種目で200メートルの1分55秒07、400メートルで4分6秒05は日本記録。昨年10月に引退し、昨年4月から日体大大学院に進学。「チームブリヂストン・アスリート・アンバサダー」も務めている。


