28年7月開幕のロサンゼルス五輪まで14日、ちょうど2年となった。追加競技のラクロスは1908年ロンドン以来、120年ぶりの復活となる。メダル獲得を狙う男子日本代表ゴーリー(ゴールキーパー)の伊藤駿(25)は世界最高峰の米プレミアリーグ(PLL)初の日本人選手。大学途中でサッカーから転向した異色の経歴の持ち主だが、才能を開花させ名門クラブとの契約をつかんだ。パイオニアとして世界に挑む。
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競技転向から5年で夢の切符をつかんだ。神奈川・川崎市の「KAWASAKI FALCONS」に所属する伊藤は、5月にPLLの「メリーランド・ウィップスネークス」と27年までの2年契約を結んだ。6月上旬、渡米前の会見では「早く(米国に)行ってチームに合流したい」とプレーを熱望していた。
PLLは、19年創設の新しいプロリーグで世界ランク1位の米国やラクロスを国技とするカナダなど世界のトップ選手がひしめく。試合も数万人規模の観客を動員する人気を誇る。これまで日本選手が試合に出場した例はないという。
今季は5月上旬に開幕。伊藤は8月中にチーム合流する予定で「まだ動画しか追えていない。自分の能力を見せつける次のステップに進みたい」と意気込む。最大の強みは、世界トップクラスで時速190キロに及ぶシュートに対応できるサッカー仕込みの反射神経。「(サッカーと)同じサイズ感のグラウンドでプレーをするところやゴールキーパーと同じような動きができるところが強み」。
少年時代からサッカーに打ち込んだ。東京・明大八王子高ではGKとして東京都地区選抜にも選ばれた。ラクロスとの出合いは、大学2年。新型コロナウイルス感染拡大の影響で所属していたサッカーサークルが活動停止になった。「何も活動ができず、授業もずっとオンラインだったので、本当に家から出ることもできなかった」と振り返る。
日常を奪われ、途方に暮れた。空っぽになりかけた大学生活に希望の光をもたらしたのは、明大ラクロス部員で高校の同級生。当時、ゴールを守るポジション「ゴーリー」の新戦力を探していたという。
サッカーのGK経験を買われた伊藤はラクロス部の友人に「今から始めても日本代表や海外でも活躍できる」と背中を押されたことで転向を決意した。
サッカーのGKは手足を使うが、ラクロスは「クロス」と呼ばれるスティックでボールを操る。最初に苦労したのが、パスやシュートの基本となるスローイング。「ボールを投げられるようになるまでに長く時間がかかった」。周囲との経験差を埋めるべく、伊藤は先輩やコーチの指導の下、さまざまな投げ方に挑戦。提示されたメニューをこなすだけでなく「とにかくスティックを触り続けた」。練習以外の時間も手にクロスの感覚をなじませた。
ゴーリーに必要なセービング能力も磨いた。球の直径が22センチのサッカーに比べ、ラクロスはテニスボールと同じほどの6センチ。ゴーリーはクロスを素早く出したり、体を張って相手のシュートを止めるのが役割。最初は学生レベルのスピード感に適応するため、自主練習を重ねた。ただグラウンドに早く来すぎるため「シュートを打ってくれる選手はいなかった」が、工夫を凝らした。
シュート側の目線となるポイントにスマートフォンを設置して動画を撮影。頭の中でシューターの動きを想定しながら、体を動かした。「シュートを打つ人から(ゴーリーが)どういう見え方をしているのか。逆にどういう守り方をすれば嫌がるのかを研究した」。孤独な自主練習で、理想的なセービングを磨いた。努力は実を結び、入部からわずか2年で21歳以下日本代表入り。大学卒業後は保険会社に就職して、国内トップ選手にもなった。
転機は今年3月の国際試合だった。驚異的なセーブを連発。その姿がPLL関係者の目に留まり、4月には米国のトレーニングキャンプに招待された。世界中から選手200人が集結する中、圧巻のセービングでプロ契約を勝ち取った。
伊藤はシーズン期間中は、勤務先の休職制度を利用し、米国に渡る。
海外選手のパスやシュートのスピード感、フィジカルの強さには圧倒されたというが「まずはゴーリーとしてシュートを止めるところを大前提にプレーしたい」。今季はPLLで主力ゴーリーの目安となるセーブ率65%を目標に取り組む。
追加競技となったロス五輪の中間年。秋からは五輪切符をかけた戦いの火ぶたも切られる。10月には五輪予選を兼ねた6人制世界選手権の出場権をかけたアジアパシフィック選手権が開催される。PLLは10人制だが、五輪は6人制で実施。「6人制のノウハウを現地でも吸収したい。五輪への戦いはすでに始まっており、他国も強化に力を注いでいる情報もある。順位争いはこれまで以上に激しくなる」と語る。
多くの日本人アスリートが活躍する米国。伊藤もパイオニアとして本場のフィールドに初めて名を刻む。「まずはアメリカで結果を残す。来年の世界選手権、再来年のオリンピックでの活躍を通じてスポーツ選手として大きな存在でありたい。そして、ラクロスの今後の発展に貢献をしていきたい」。日本の守護神、第一人者として成長し続け、未来の架け橋となる。
◆ラクロス 北米の先住民に親しまれ、17世紀に欧州からの入植者が取り入れて競技として発展。先端にネットがついた「クロス」と呼ばれるスティックで球を操り、ゴールを狙って得点を競う。フィールドのサイズは横110メートル、縦60メートル。1904年セントルイス、08年ロンドン両五輪で実施。10人制が基本だが、2028年ロサンゼルス五輪では6人制。6人制の日本男子は22年ワールドゲームズ(WG)銅メダル。女子は昨年WG4位。日本の競技人口は24年現在で約1万2600人。今年は、7月24日から8月2日まで女子世界選手権が東京で行われる。
◆伊藤駿(いとう・しゅん)2001年(平13)3月8日生まれ、東京都出身。幼少期からサッカーに打ち込み、明大八王子高サッカー部ではGKとして東京都地区選抜にも選ばれた。明大2年途中からラクロス部に入部して、ゴーリーに。22年は21歳以下男子日本代表に選ばれた。キャッチセーブからパスまでの速さを強みとする。好きな食べ物はしゃぶしゃぶ。181センチ、85キロ。
◆ロサンゼルス五輪 28年7月14日に開幕して30日まで36競技351種目が行われる。ロサンゼルスでは1932年、1984年に続いて3度目の開催。24年パリ五輪から野球・ソフトボール、クリケット、フラッグフットボール、ラクロス、スカッシュの5競技が加わった。野球・ソフトボールは2大会ぶり、ラクロスは1908年以来120年ぶり、クリケットは1900年以来128年ぶりの復活となった。開会式は史上初の2会場開催。過去2度の五輪でも舞台となったメモリアル・コロシアムと、NFLラムズとチャージャーズが本拠地とするソーファイ・スタジアムで行う。閉会式は、メモリアル・コロシアムで開催する。


