【第22回】
見逃しやすいアスペルガー症候群
発達障害(1)
T君は18歳。コンピューターのプログラマーになるために専門学校へ通っている。昔から人付き合いが苦手だったが、最近、児童福祉を学ぶ女性と出会い、優しげな彼女に恋をした。悩んだ末に思い切ってデートに誘うことに成功した。映画を見てお茶を飲み、会話は途切れがちだったが、T君は舞い上がっていた。
だが2度目のデートに誘ったとき、彼女はうつむいて言いづらそうに、こう答えたのだった。「ごめんね、これからも友達として付き合いたいの。こんなこと言って悪いけど、あなたって、アスペルガー症候群っていうのかもしれない。一度お医者さんに診てもらったらどうかしら…」。
大変なショックを受けたが、迷った末に精神科を受診し、検査の結果、アスペルガー症候群と診断された。アスペルガー症候群とは、自閉症の1つで高機能広汎性発達障害ともいわれ、次の3つの特徴を持つ。(1)他人と社会的な関係を持ちにくい(2)コミュニケーションを取りにくい(3)想像力と創造力に問題がある。
T君は子どものころから、勉強はよくできたが、運動や音楽はとても苦手だった。クラスの仲間にもうまくとけ込めず、冗談を言ったつもりでも相手が急に怒り出してしまったり、自分が本で読んだ知識を友達に話していると途中で嫌な顔をされたり、自慢をしているといじめられたりすることもたびたびだった。
「アスペルガー症候群は特徴が小さいころから出ていても、知的障害を伴うことが少ないので見逃されやすい。『性格の変わった子』として親も気付かずサポートのないまま成人する場合も多いですね」と岐阜大の精神科医高岡健氏(日本児童青年精神医学会理事)は言う。「多くの子は大変繊細で、集団になじめないために、自分に悪いところがあるのではないかと悩んで、我慢を重ねてうつ状態になったり、逆に攻撃的になったりすることもあります」。
最近は、10代後半に自ら、親とともに精神科を受診するケースも増えてきている。「思春期に診断された場合、ものの考え方や行動を矯正するのではなく、その子の持っている特徴を理解し、それを生かした職業の選び方や、他人との付き合い方などの援助プランを一緒に考えるのが専門家の役割です」と高岡医師は話す。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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