94年ぶりの五輪3連覇という大偉業を目指す羽生結弦(27=ANA)が、まさかのミスで出遅れた。95・15点で8位だった。

世界選手権3連覇中のライバル、ネーサン・チェン(米国)が113・97点のSP世界最高得点で首位に立つ中(従来の記録は羽生の111・82点)、金メダルは厳しくなった。

【羽生結弦】フォトギャラリー>>

鍵山優真(オリエンタルバイオ/星槎)が108・12点で2位、宇野昌磨(トヨタ自動車)が105・90点で3位。

まさかのミスが出た。最初の4回転サルコーは回転が抜け、1回転になった。その後の4回転トーループ、3回転トーループの連続ジャンプを成功させるなど冷静に立て直した。最後は右手を突き上げて演技終了。両手を掲げて各方面に頭を下げたが、心中は穏やかでなかった。

羽生は開口一番、「もう、しょうがないなという感じです。自分の中ではミスはなかったと思っているので、正直、一番たぶん、皆さんよりも僕がフワフワしていると思うんですけど、なんか、ちょっと嫌われたなと思っています」とサバサバとした表情。

冒頭の4回転サルコーについて問われると「他のスケーターの穴が存在していて、パコって、はまってしまった。今までのショートの中でも全体的にもいい演技だったなとは思っている」と振り返った。

    ◇    ◇

五輪シーズンに用意したピアノ曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」を、今季初の国際大会となった五輪で世界に披露した。

いつか演じたかったというサンサーンスの名曲だった。4年前の平昌五輪で2連覇した際に演じ、今もSPの世界記録として残る「バラード第1番」と同じピアノ曲を探して、たどり着いた。コロナ禍で「暗闇の底に落ちた」時に救われたナンバー「春よ、来い」のピアニスト清塚信也に編曲を依頼し、一般的なバイオリンではなく、ピアノ版として完成した特別版だ。

昨年末の全日本選手権で舞った後には「まだ洗練されていないけど『バラ1』や『SEIMEI』という自分の代表作の価値以上に具体的な物語が、曲に乗せる気持ちが、強くあるプログラム」と自賛。初演だったにもかかわらず、演技構成点「曲の解釈」の項目で自身初となる10点満点をたたき出していた。

本番2日前の6日に北京へ入ったばかり。前日7日は練習リンクで調整し、朝の公式練習で初めて会場の氷の感触を確かめた。異例の調整も。かつて「五輪を知っている」と言った男ならでは。その練習も30分のうち19分で切り上げる独自調整を貫いている。

10日のフリー「天と地と」では、世界初成功を目指すクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑む。この日の朝も、SP直前ながら2日後のフリーを見据えて1回、4回転半にトライした。「この五輪で上にいくためには絶対に必要だと思っている」という武器。「最終目標」と言い続けてきた成功へ。既に2連覇した後の、3度目の五輪で「まだ成長しなくてはいけない部分がある状態、での試合」という向上心をほとばしらせている。

1928年サンモリッツ大会のギリス・グラフストロム(スウェーデン)以来となる五輪3連覇は厳しくなった。それでも王者としての矜持を胸に10日のフリーに向かう。

「コンディションはかなりいいと思っている。氷との相性はすごくいいなと思っているので、しっかり練習して決めきりたい」

最後の一瞬まで勝負を捨てない。それが羽生結弦という男だ。【木下淳】