姉妹で目指した五輪連覇が、残り60メートルで消え去った。高木菜那(29=日本電産サンキョー)、高木美帆(27=日体大職)、佐藤綾乃(25=ANA)の平昌五輪金メダルメンバーで挑んだが、3番手で滑走していた高木菜が最終コーナーの出口で転倒。3分4秒47で銀メダルとなった。

決勝で対戦したカナダは2分53秒44の五輪新記録で金メダルを獲得した。

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頼む。体よ、持ってくれ。前へ攻めた高木菜のスケートがうまく着氷せず、体がのけぞる。残り60メートル。連覇の金メダルはすぐそこなのに、遠心力に抗えない。無残にも体はリンクサイドのマットに放り出された。起き上がると、はるか先を滑る仲間が、膝に手をついてうつむいていた。

立ち上がり、必死でゴールを切った。悔やんでも悔やみきれない。脇を見れば佐藤が号泣していた。「ごめん」。顔の前で両手を合わせると高木美が近づく。世界一の抱擁をするはずだった北京のリンクで、姉妹は悔し涙で抱き合った。

妹は「かける言葉が見当たらなかった」。ただ無言で背中をたたく。「どうすることもできない。もどかしい。(転倒を)背負う必要はなくても、本人はそうはいかない…。長く過ごしていれば感じる」。姉の心を察した。

折り返しの3周で0秒59あったリードは、周回を追うごとに縮められた。残り1周(400メートル)で0秒39。ラスト半周は0秒32まで迫った。佐藤は「コーチの焦る雰囲気で追い上げられている」と感じた。

高木菜は調子が良かった。最終コーナーも前をプッシュできるほど攻めた結果、佐藤の足にスケートが交錯しそうになり、バランスを崩した。原因は「まだ何も考えられない」とひと言を残し、ミックスゾーンでしゃがみこんだ。

競技生活では姉妹というよりライバル。東京五輪に見た、きょうだい愛と「私たちは違う」と、ともに言い切る。「『一緒に行こうね』より、どちらかが落ちても自分は五輪に行きたいと思っているのが私たち」(姉)。妹も「ライバルと姉妹が同位置にある」と語っていた。

強烈な個と個がしのぎを削って、連覇にあと1歩まで迫った。「速くなるために徹底的に話し合い、自信を持って臨んだ。悔いはない」と言う高木美の目は赤く腫れ上がっている。それでも姉の苦しさを受け止めようと、なんとか平静を保とうとした。

高木菜は「転ばなかったら優勝できたタイムだった。悔しい…」と妹の腕の中で号泣した。その肩を抱く妹も、涙がこらえきれなかった。【三須一紀】