東京都立川市が2020年東京五輪の北中南米の前線基地になる。同市に東京ドーム21個分の土地を所有する立飛ホールディングスが、パンアメリカン・スポーツ機構(パンナム機構)と事前トレーニングキャンプ地の覚書を締結。同機構の加盟41カ国・地域の半数を超える二十数カ国、約250人もの合同選手団を受け入れ、「スポーツ振興都市・立川」を世界に発信する。


立川立飛の全景
立川立飛の全景

東京五輪開幕まで500日を切った。海外選手団の事前トレーニングキャンプ地の誘致も佳境を迎え、200近い自治体で受け入れが決まっている。その中で唯一、民間企業として覚書を締結したのが、立川市で不動産開発事業を手掛ける立飛ホールディングス(以下立飛)。開幕前の約10日間、北中南米の国々が加盟するパンナム・スポーツ機構(以下パンナム)の二十数カ国、選手・関係者を含め約250人を受け入れる。国数も選手数も群を抜く。



きっかけは17年7月。立飛の施設を訪れたパンナムの代理人が、偶然にも当日グランドオープンした地元タチヒビーチのにぎわいに魅了され、その後、都心からの交通の便もよく、商業及びスポーツ施設が充実していることを調べて、「事前キャンプ地に」と支援を求めてきたという。立飛の村山正道社長(67)は当時をこう振り返る。

村山 もともと当社が主体性を持って地域を巻き込み、街を活性化したいと思っていて、その手段としてスポーツに力を入れてきました。20年に向けても立川で何かしたいと思っていたので支援を約束しました。昨年7月にペルーのリマで行われたパンナムの総会に足を運び、同11月に覚書を締結しました。

立飛の前身は「立川飛行機」。飛行機製造工場だった敷地など、立川市の中心に東京ドーム21個分に相当する広大な土地を保有している。3年ほど前からスポーツを核とした不動産の開発に本格着手。17年7月に人工ビーチ「タチヒビーチ」を開業(賃貸)。同10月に落成した3000人収容の「アリーナ立川立飛」ではBリーグのアルバルク東京のホームゲームを開催し、18年8月には大相撲の巡業を行うとともに、「ドーム立川立飛」を建設し、アリーナとドームを使って9月に大坂なおみの凱旋(がいせん)試合となったテニスの東レパンパシフィックオープン(東レPPO)を誘致した。



村山 市の25分の1の土地を保有している企業として、社会資本をどう活用するかという責任がある。もうけるためではなく、立川のため、活気のある街づくりのために生きたお金を使いたい。それにはスポーツが一番効果的であると思っています。

実際にその効果はデータでも立証された。昨年の東レPPOでの会場周辺での経済効果等の調査を民間調査機関に依頼。大会9日間の経済効果は5億4000万円。誘客効果は16万2000人と試算された。

事前キャンプの練習会場はアリーナやドーム、ビーチなど既存施設に加えて、陸上競技のトラックなどは周辺の大学の施設を借用する方向で話を進めている。一方、立川市には30近い小中学校がある。キャンプ期間中は行政と協力して1校が1つの国を応援する1校1国運動など、市民と選手の交流も計画。10日間のキャンプ期間に、さらに大きな波及効果を期待している。

立飛では20年東京大会に合わせて、もう1つ大きな再開発をしている。立川駅北側の約3・9ヘクタールの「みどり地区」に、天然温泉を使用したプールを備えた高級ホテル、2500席収容の音楽ホール、オフィスや飲食施設を建設中で、来年4月以降に順次開業を予定している。20年のさらに先を見据え、東京大会で世界中の人に立川をアピールするという狙いもある。

村山 20年を契機に立川はブレークします。その後の5年、10年でさらに劇的に変わります。世界を目指す街になる。事前キャンプにはパンナムの全41カ国のテレビクルーも来ると聞いています。もともと戦前に立川には日本初の国際空港があった。再びここから世界に情報が発信される日がくると信じています。


立飛HDの村山正道社長(右)とフェンシング女子江村美咲
立飛HDの村山正道社長(右)とフェンシング女子江村美咲

フェンシング江村視察

東京五輪でメダル獲得を目指すフェンシング女子サーブルの日本王者、江村美咲が今月1日に立飛本社ビルを訪れた。88年ソウル五輪代表で08年北京五輪で日本代表監督も務めた父宏二さんが、近くドーム立川立飛で地元の子どもたちを対象にフェンシング教室をはじめるため、2人で施設を視察した。宏二さんは「神経の発達する時期にフェンシングをやれば、体ができたころに化ける」とスタートを楽しみにしていた。


◆立飛ホールディングス 前身は1924年(大13)に都内に設立された「石川島飛行機製作所」。30年に立川市に移転し、その後「立川飛行機」に社名変更。愛称「赤とんぼ」などの飛行機約1万機を製造した。戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に飛行機製造を禁じられ、工場敷地も接収されたが、飛行機製作解禁後の52年に戦後国産飛行機第1号を製作。77年の工場敷地全面返還を受けて不動産賃貸業を展開。11年に立飛ホールディングスに再編。立川市の98万平方メートルの広大な土地を一体開発して地域社会への貢献に取り組む。本社は東京都立川市栄町6丁目1番地 立飛ビル3号館。



◆事前トレーニングキャンプ 20年東京大会に出場するアスリートのコンディション調整やパフォーマンスの維持・向上を図る目的で、参加国・地域の選手団や競技チームが任意に実施する大会開幕前のトレーニングキャンプ。誘致する自治体は大会の機運醸成、市民のスポーツへの理解・関心の向上、街の活性化、国際・異文化交流などを図る狙いがある。施設充実のため自治体と地元の大学などの学校法人が連携して誘致する例も多い。昨年末時点で全国の200近くの自治体が誘致を決めており、最多は静岡県の14市19件(9カ国1地域)。


◆アリーナ立川立飛 17年10月開場。収容人数約3000人。Bリーグのアルバルク東京のホームゲームを開催。フットサル男子「立川・府中アスレチックFC」のホームアリーナ。東レPPOテニスや卓球のTリーグのほか大相撲夏巡業、プロボクシングなどスポーツ興行は多岐にわたる。

アリーナ立川立飛
アリーナ立川立飛

◆タチヒビーチ 17年にオープンした人工の砂浜。6500平方メートルの敷地の半分に1200トンの砂を入れた。ビーチサッカーは1面、ビーチバレーは2面のコートが確保できる。年間を通じてバーベキューなどレジャーでも利用できる。

タチヒビーチ
タチヒビーチ

◆みどり地区 約3・9ヘクタールの敷地にホテル、ホール、オフィスビル、商業施設など9棟のビルを建設。来年4月に「GREEN SPRINGS」としてオープン予定。ホテルには天然温泉を使用したプールも完備。高尾山や武蔵野と都心をつなぐ東京の中心地として観光拠点も目指す。


◆ららぽーと立川立飛 15年に開業したショッピングセンター。店舗面積6万平方メートルでテナントは240に及ぶ。昨年6月にはイベント広場で東京五輪の正式種目に採用された3人制バスケットボールの地元チーム「立川ダイス」の開幕戦も開催された。


◆ドーム立川立飛 アリーナ立川立飛の隣に18年8月に併設された体育館。東レパンパシフィックテニスでも使用された。来年度から地元の子供たちを対象にフェンシング教室も実施予定で、立川市からトップアスリートを育成する拠点になる。

ドーム立川立飛
ドーム立川立飛

◆立川市 東京都の中央のやや西より位置する東京三多摩地区の中心都市。面積は24・36平方キロメートル。人口は約18万人。立川駅前は大型商業施設やオフィスが集中。東京駅からJR中央線特別快速で約40分。新宿駅から同30分。市の中央部に昭島市とまたがる国営昭和記念公園がある。01年に「東京の新しい都市づくりビジョン」で核都市に指定された。農業も盛んでウドは同市の特産品。同市出身の主なスポーツ選手に女子プロレスラーのアジャ・コング。清水庄平市長。


◆パンアメリカン・スポーツ機構 北中南米に立地する41カ国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)の集合組織。アジアオリンピック評議会、欧州オリンピック委員会などと並ぶ組織。第2次世界大戦前に設立され、1951年に総合競技大会の「第1回パンアメリカン競技大会」をアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催。以来、4年に1度開催している。略称はパンナムスポーツ。本部はメキシコシティー。