パラリンピック独自の競技、ボッチャの20年東京大会出場枠をかけたアジア・オセアニア選手権が2日、ソウルで開幕した。日本代表は個人戦4種目での優勝と団体戦3種目でのメダル獲得を目標に掲げ、5日から試合に臨む。16年リオデジャネイロ大会のチームBC1-2で銀メダルを獲得し、東京では金メダルも期待される「火ノ玉ジャパン」の村上光輝監督(44)に、大会への意気込みや強化策、来年へ向けた展望、ボッチャの魅力などを語ってもらった。


ボッチャ日本代表強化合宿で選手に指示する村上監督(右から3人目)(撮影・鈴木みどり)
ボッチャ日本代表強化合宿で選手に指示する村上監督(右から3人目)(撮影・鈴木みどり)

今回のアジア・オセアニア選手権は東京大会の出場枠がかかった真剣勝負で、日本にとっても今年一番大事な大会と考えています。私たちには開催国枠で東京の全7種目に1つずつ出場枠が与えられています。ただ、今大会の個人戦4種目に優勝して出場枠をより多く確保することを目標に戦略、戦術を整えました。団体戦の3種目はメダルを狙いながら、アジアの高いレベルの中で世界との距離感を確認することが狙いになると思います。

16年のリオデジャネイロ大会で、チームBC1-2が決勝でタイに敗れたものの銀、日本初のメダルを獲得できました。それ以降の国際大会ではチームでメダルを取って、主将の杉村が個人のメダルを手にするパターンが続きましたが、ここにきて成績に変化が表れています。

昨年12月のドバイ・ワールドオープン(WO)ではチームに加えてペアBC3が銀メダルを獲得しました。チームはタイ、ペアはギリシャに決勝で敗れましたが、相手はともに世界1位です。個人でもBC1の中村、BC2の杉村が銀でBC3の高橋が銅メダル。日本が初めて3クラスでメダルを獲得した大会になりした。

火ノ玉ジャパン全体で、みんなで戦う意識が浸透してきた成果です。クラスに関係なく練習試合をしたり、自由に意見を交換できる雰囲気づくりを意識してきました。それが全体のレベルアップにつながったのでしょう。今年5月の香港WOではペアBC3が決勝でタイを破って金メダルを獲得し、チームの銅メダルを上回りました。江崎らBC4の選手たちも強豪らと好勝負を繰り広げました。

リオで銀メダルの杉村、広瀬、藤井がいることから、東京ではチームの金メダルも期待されているでしょう。でも、私たちは来年の目標を「応援される選手になって、全クラスでメダルを取る」にしています。

リオの結果に舞い上がっていてはいけない。金メダルを取るにはそれ相当の練習、覚悟が必要になる。日常生活から代表選手としての自覚を持ち、多くの方々に応援したいと思っていただける選手になってほしい。そして、クラスごとに必ず1つはメダルを取ろうと誓い合っています。1人の選手が1点取るのにどれだけ多くの選手が協力したかを重視しようと思います。

アジア・オセアニア選手権は東京大会前の1つの集大成。選手には戦術の引き出しが多く備わっているので、それを自分の判断で、どのタイミングで出せるかが楽しみです。アジアのレベルは世界的にも高く、王者のタイに中国が肉薄し、日本が追う形で韓国、香港も強い。そんな厳しい戦いで自分たちの目標を実現し、東京へ進んでいきたいと思います。

(ボッチャ日本代表監督 村上光輝)

◆村上光輝(むらかみ・みつてる)1974年(昭49)8月1日、福島市生まれ。小学生時代からサッカーを始め、福島東高3年時にMFとして全国高校総体出場。進学した順大でもサッカー部に在籍した。同大卒業後教職に就き、福島県立西郷、富岡、石川養護(現支援)学校に勤務しながらボッチャの大会運営、指導に関わるようになる。09年から日本代表の指導に携わり、パラリンピックでは12年ロンドン、16年リオデジャネイロ大会でコーチを務めた。昨秋のジャカルタ・アジアパラから代表監督。12年から日本ボッチャ協会強化指導部長。16年から日本パラリンピック委員会専任コーチ。仙台大大学院修士課程を修了し、現在は順大大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程に在学中。家族は夫人と長男。

<全7種目>◆20年東京では 4クラスの個人戦と団体戦としてBC1・2のチーム、BC3、BC4各ペアの合計7種目が行われる。個人戦は1種目に24人(1国2人までの見込み)、団体戦には1種目に10カ国が出場。各大陸・地域選手権優勝者と来春の世界ランキング上位らが出場枠を得る。日本は全種目に開催国枠1つを持っている。


▼村上監督からのコメント付き選手名鑑

<略歴の見方>(1)生年月日(2)出身地(3)クラス・世界ランク(4)主な実績(WO=ワールドオープン、OP=オープン)(5)所属


BC1 車いす操作不可で、四肢・体幹に重度のまひがある脳原性疾患のみのクラス

BC2 上肢での車いす操作がある程度可能で脳原性疾患のみのクラス


BC3 最も障がいの重いクラスで自己投球ができないため競技アシスタントによるサポートにてランプを使用して投球する


BC4 筋ジストロフィーなど、BC1・BC2と同等の重度四肢機能障がいのある選手がクラス


■ボッチャの魅力

(1)ルールが簡単で得点数や勝敗が分かりやすいです。白いジャックボール(目標球)に自分のボールをどれだけ近づけられるかを競います。ボッチャはよく「地上のカーリング」などと言われて確かによく似ているのですが、大きな違いもあります。それはジャックボールを動かせること。目標に寄せるだけではなく、ジャック自体を動かすことで得点することもある。戦略、戦術は数限りなくあり、日々新たなものが生まれています。ぜひ、試合展開を予想しながら観戦してみてください。予想を裏切られる面白さを味わえると思います。

(2)投球方法に注目してください。ボッチャは重い障がいがある人たちのために考案されたスポーツですが、選手はその障がいに応じて投球に工夫を凝らしています。上から、下からはもちろん、ランプという滑り台のような道具を使う選手もいる。海外には足の指でボールをつかんで投げたり、サッカーのようにキックする選手もいます。

(3)男女ミックス競技なので、年齢や性別に関係なく試合が行われます。例えば高校生の男子選手が中年の女子選手に完敗してしまうこともある。今年から団体戦のチーム、ペアには女性が必ず出場しなければならないルールができました。女子選手の起用法や活躍が勝敗を分けることも増えてくるでしょう。また、障がいの有無や年齢に関係なく誰でも手軽に楽しめます。企業や学校に健常者のクラブも誕生し、日本代表と対戦できる団体戦の全国大会も開催しています。みなさん、ぜひボッチャを見て、体験してみてください。


<台頭中国を警戒>リオの銀メダリスト杉村主将は新たなライバルを警戒する。5月の香港WOのチームでは1次リーグで中国に敗れたことが響いて3位。個人でも準決勝でタイ、3位決定戦で中国選手に屈してメダルを逃した。「中国が力をつけている。タイだけに目を向けていると足をすくわれる。しっかり準備したい」。村上監督が東京の個人金メダルを期待するエースは気を引き締め直して大会に臨む。