北京オリンピック(五輪)のフィギュアスケート女子で史上初、表彰台独占の可能性を持つ強国がある。東京五輪に続き組織的なドーピング問題で「ROC(ロシア・オリンピック委員会)」として臨むロシアは、今大会にシニア1年目で金メダル最有力のカミラ・ワリエワ(15)、昨季世界女王のアンナ・シェルバコワ(17)、複数の4回転ジャンプを跳ぶアレクサンドラ・トルソワ(17)が出場。18年平昌五輪後の勢力図を3つの時代に分けて、おさらいする。

フィギュアスケート・ロシア女子相関図
フィギュアスケート・ロシア女子相関図

18年平昌五輪 4年前の平昌五輪、金メダルをつかんだのは15歳アリーナ・ザギトワだった。フリーでは7つのジャンプ全てを基礎点が1・1倍となる演技後半(のちにルール改正あり)に組み込み「金メダルは、まだ信じられない」と笑った。五輪1季前まで同門のエフゲニア・メドベージェワが、世界選手権を2連覇。シニア1年目で銀メダルの先輩を上回った。大会後も秋田犬保存会から贈呈された「マサル」とともに、日本のファンからも愛された。

一方のメドベージェワは五輪シーズン終了後、カナダのブライアン・オーサー・コーチに師事。18-19年の最後に意地を見せた。シニア1年目の紀平梨花がグランプリ(GP)ファイナル優勝と台頭する中、19年3月の世界選手権ではザギトワが優勝、メドベージェワが3位。追われる立場で苦しんだメドベージェワは「満足という感情でした」とガッツポーズを見せた。

19-20年シーズン 翌シーズン、世界の勢力図が様変わりした。世界ジュニア選手権を制したトルソワ、2位シェルバコワ、ジュニアGPファイナル優勝のアリョーナ・コストルナヤがそろってシニア転向。トルソワとシェルバコワは複数の4回転、コストルナヤはトリプルアクセル(3回転半)を武器に、GPファイナル、欧州選手権と3人で表彰台を独占。新型コロナウイルスの影響で中止だった世界選手権も「3人娘」が軸となる見通しだった。

3人の大躍進は新時代の到来を告げた。3回転半の安定感が光る紀平も「4回転サルコーをもっともっと練習していかなきゃいけない」と意識。男子の羽生結弦もトルソワと同じ大会に出場した際に「偏見とかではなく、男子よりも力が弱い中で、あれだけ4回転が跳べるのは魔法ではない。自分も線が細くて力を使わないで跳びたい信念がある。参考にしています」と口にした。エテリ・トゥトベリゼ・コーチの教え子たちが確固たる地位を築いた。

スコア世界歴代7傑
スコア世界歴代7傑

20-21年シーズン 北京五輪シーズンの今季、またしてもトゥトベリゼ・コーチに師事する15歳がシニアの舞台にやってきた。ワリエワはシニア初の国際大会だったフィンランディア杯で、いきなりフリー、合計の世界歴代最高得点を記録。両手を上げて跳ぶ3回転半、複数の4回転に加えて、洗練された滑りで表現面の評価も高い。GPロシア杯では合計272・71点と世界最高を更新。歴代2位のコストルナヤに25・12点差、ロシア以外で最上位の紀平(歴代7位)に39・59点差と突出した力を持つ。

最終的には1月の欧州選手権で優勝したワリエワ、2位シェルバコワ、3位トルソワが五輪代表権をつかんだ。「3人娘」の1人、コストルナヤは故障で代表選考会を兼ねたロシア選手権を欠場。昨季世界選手権2位と輝いた25歳エリザベータ・トゥクタミシェワでさえ、ロシア選手権7位で涙をのんだ。“世界一厳しい代表争い”を勝ち抜いた3人が、北京に乗り込む。