競技の奥深さや魅力をスペシャリストに聞く「教えて○○さん」第4回は、東京オリンピック(五輪)から正式競技となるサーフィン。マリンスポーツの中でもとりわけ若者人気が高く、世界では3500万人以上、国内だけでも200万人以上の愛好家がいると、いわれています。サーフィンの歴史をたどるとともに、五輪で審判員を務める加藤将門さん(61)に競技の採点方法や観戦を楽しむポイントを聞きました。【取材・構成=平山連】

サーフィン(ショートボード)
サーフィン(ショートボード)

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■古代ポリネシア人の中で発祥

サーフィンの歴史は古い。国内競技団体(NF)を務める日本サーフィン連盟によると、競技の起源は古く明確な時期は分かっていないが、少なくとも西暦400年頃には、ハワイやタヒチに住んでいた古代ポリネシア人の中で発祥したといわれている。

海の民と呼ばれた古代ポリネシア人は卓越した航海技術を持ち「アウトリガーカヌー」で漁に出掛けていたが、その技術を次第に娯楽にも応用した。カヌーの小型化に成功し、「オロ」や「アライア」と呼ばれるサーフボードの原形が生まれた。英国から来た宣教師たちの布教の妨げになると一時は禁止されて下火となったが、20世紀初頭に再び活気を取り戻した。

中でも1912年、20年五輪競泳男子100メートル自由形で金メダルを獲得したデューク・カハナモク(米国)の果たした貢献は、競技普及の礎を築く上で欠かせなかった。ハワイ出身のカハナモクは世界各地で行われる競泳大会に出向く際、木製のボードにフィンを付けて実技を披露した。魅力を訴える活動はオーストラリアやカリフォルニアに及び、「近代サーフィンの父」として今も敬意を抱かれている。

カハナモクの死後から50年余り。国際オリンピック委員会(IOC)はサーフィンやスケートボードなど5競技18種目を東京五輪の追加種目に入れることを決定した。若年層に人気の高い競技を加えるとの意向が反映され、五輪に新たな価値を生み出すと期待されている。

東京五輪で初めて正式競技となったサーフィンが行われる千葉・一宮町の釣ケ崎海岸(撮影・平山連)
東京五輪で初めて正式競技となったサーフィンが行われる千葉・一宮町の釣ケ崎海岸(撮影・平山連)
東京五輪でのサーフィン開催に伴い、会場の千葉・釣ケ崎海岸周辺で関連工事を知らせる掲示版(撮影・平山連)
東京五輪でのサーフィン開催に伴い、会場の千葉・釣ケ崎海岸周辺で関連工事を知らせる掲示版(撮影・平山連)

■5つの基準で判断

採点競技のサーフィンは主にロングボード(2・74メートル)とショートボード(1・83メートル)に分けられ、東京五輪では男女各20人がショートボードで戦う。加藤さん(以下加藤)は、本大会の審判員11人のうちの1人だ。試合時間は一般的に20~30分内。制限時間内に大体10本前後の波に乗り、技の難易度や出来栄えで得点を算出し、高得点2本の合計で争う。各試合のことをヒートと言い、1ヒート4人で戦うことは「4メンヒート」。上位2人が次のラウンドに駒を進める。

-採点方法は

加藤 ライディング(波に乗っている状態での演技)1本ごとに10点満点で採点し、スコアの区分には5段階あります。0・1~1・9点のプアー(POOR)、2・0~3・9点のフェアー(FAIR)、4・0~5・9点のアベレージ(AVERAGE)、6・0~7・9点のグッド(GOOD)、8・0~10・0点のエクセレント(EXCELLENT)です。

-どんな観点で判定しているのか

加藤 波に対してサーフボードがどんな曲線を描けたのかを「マニューバー」と呼びます。成功すれば高得点につながるメジャー(6種類)と、つなぎの演技に当たり点数にさほど影響しないマイナー(3種類)に分類します。

-判定のポイントは?

加藤 180度ボードを反転させる「オフザリップ」、波の底部から勢いを付ける「ボトムターン」など、選手たちの各ライディングでの技を振り返ります。(1)積極性と難易度の高さ(2)革新性と進歩性(3)コンビネーション(4)多様なマニューバー(5)スピードやパワーや流れ、という5つの基準で総合的に判断します。

-選手に序列はない?

加藤 自然を相手にしているため、実力的に上回っている選手が負けることも珍しくありません。試合中はパドリングしながら良い波がどこに来るのか探す時間が多く、時間帯によって潮位がどのくらいか、どの辺りで波が割れるかと下調べが欠かせません。

五十嵐カノア
五十嵐カノア
ジャパンオープンで優勝した前田マヒナ(C)JAPANOPENOFSURFING
ジャパンオープンで優勝した前田マヒナ(C)JAPANOPENOFSURFING

-オススメの観戦方法は?

加藤 テレビで見る時には審判の付けた1本目の点数を参考に、自分なりに得点を付けると面白いです。選手たちのパフォーマンスに見取れて「あの選手すごかった」「かっこよかった」など自然と感想が出て来ると思います。

-東京五輪で審判をする意気込みは?

加藤 オリンピック競技として初めて実施される瞬間に関われるのはとてもワクワクしますが、どんな大会でも審判はイベントを成功させる上での1つの駒に過ぎません。忠実なジャッジを心掛け、10点満点を付けるようなライディングを心待ちにしています。

サーフィンの大会で審判を務める加藤さん(左)(加藤さん提供)
サーフィンの大会で審判を務める加藤さん(左)(加藤さん提供)

<メジャー・マニューバー>

◆ボトムターン 波の最も低い位置からターンする技。

◆リエントリー 波の上部(リップライン)に下部(ボトム)から突き上げるように上がり回転して戻ること。

◆カットバック ボードを今まで乗ってきた方向と逆に向ける技。

◆フローター 崩れる波の上を通過していくこと。

◆チューブライド 崩れる波にできた筒状の空間を通り抜ける技。

◆エアリアル 勢いよく飛び上がってから着地するまでの間に、空中で披露する技。

<マイナー・マニューバー>

◆チェックターン 角度のない方向転換。

◆フォームフローター 崩れかけた小波の上を通過することで、演技に幅を持たせる効果がある。

◆フェードターン 技を繰り出す前に、ボードを波の切り立った場所に置く動作。

今も現役でサーフィンを続ける加藤さん(加藤さん提供)
今も現役でサーフィンを続ける加藤さん(加藤さん提供)

◆加藤将門(かとう・まさと)1959年(昭34)10月7日生まれ、秋田県出身。幼い頃に家族で千葉・南房総に移住。中学生の頃に競技に出合い、サーフィン歴は48年の大ベテラン。20代~30代前半には日本プロサーフィン連盟(JPSA)の大会に出場していたが、30代半ばから「先輩たちへの恩返しをしたい」と審判を引き受けるようになった。モットーは「常に現場で新しいサーフィンに触れる」。

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)