<パラ陸上・T42(片大腿切断)クラス 女子100メートル、200メートル、走り幅跳び日本記録保持者 大西瞳(38)>

 2012年からNHK・Eテレの障がい者バラエティー番組「バリバラ」で司会を務めています。毎回、ミニスカートなどで義足を露出しています。ソケット部分にはハイビスカスの派手な絵柄を入れています。みなさん競技用は見たことがあっても、日常の義足を見る機会はほとんどないですよね。今の義足はすごく機能的でかっこいい。だからもっと見てもらいたいと思っています。

 00年9月に風邪から心筋炎を患い、足の付け根からカテーテルを入れる治療が合わず、右足が壊死(えし)して太ももから切断しました。心臓にはペースメーカーを入れました。最初の義足は歩くこともできませんでした。そこで切断障がい者の陸上クラブ「ヘルスエンジェルス」を設立していた義肢装具士の臼井二美男さんに義足をお願いしました。01年のことです。

 私は中学、高校と陸上部で中長距離をやっていましたが、再び陸上をやろうとは思っていませんでした。競技を始めたのは臼井さんから「走れるようになると、きれいに歩けるようになるよ」と言われたから。義足の女性はみんなきれいに歩きたいと思っています。今は私も若い子に「きれいに歩けるようになるよ」と陸上に誘っています。けっこうみなさん始めますよ。

 競技用の義足は約100万円もします。私は区役所で働いている公務員なので経済的には厳しいですね。高価だからこそ真剣に競技に打ち込まなければというモチベーションにはなりますが、陸上を始める人には大きなハードルです。だから少なくとも子供たちには義足の購入資金に補助が出るような制度があればと思います。そうすると競技の普及にもつながります。

 12年のロンドン・パラリンピックは補欠で現地で観戦しました。満員の会場がすごい熱気で、観客も陸上競技をよく知っていて感動しました。13年にはあのウサイン・ボルトも出場した国際大会のゴールデンガラ(ローマ)に招待されて、T42クラスの女子100メートルに出場しました。大きな声援を浴びて、レース後はサインもせがまれました。観客にとって健常者も障がい者も同じ陸上選手なんです。国民性やスポーツ文化が違うので難しいとは思いますが、5年後の東京パラリンピックもそんな大会になってほしい。こんなビッグチャンスはもうないですから。(2015年3月25日本紙掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。