<東京五輪組織委員会大会準備運営局次長/吉村憲彦氏>

 大会準備運営局の仕事は幅広いですが、自分の担当は主に輸送と宿泊と会場運営。輸送は各会場で図面を引き、細部にわたってシミュレーションします。例えば、地下鉄の駅にある階段の幅。そこは1分間あたり何人出入りできるのか。試合の合間に観客を入れ替えできるか。出口は1つで大丈夫かと細かく検証するのです。

 最も危ぶむのは事故。階段でつまって将棋倒しでケガ人が出たら大変なこと。安全に五輪を見てもらうために輸送はとても大切。ただ普通に試合を楽しんで帰ってもらうことが、五輪では簡単ではない。普通の大会で1日に1つの会場で複数の試合が行われる例は少ない。だからこそ、シミュレーションなどの準備が大切になるのです。

 昨夏に組織委員会に来るまでは、30年間都庁に勤務していました。予算、福祉、港湾、環境と7、8局経験。スポーツ関連の部署は初ですが、東京五輪には前回16年招致から関わっています。招致のかかった6年前のコペンハーゲンであったIOC総会に応援部隊として1泊4日の弾丸ツアーに参加しました。羽田からジャンボのチャーター便で、そこに当時の石原慎太郎知事も乗っていました。

 残念ながら招致は失敗。今でも覚えているのは帰りの便で石原知事が「ありがとう」とお礼参りをしたときのことです。拍手の中、周囲から「もう1回」との掛け声が起きたとき、石原知事が涙を流したのです。強い男の代名詞で、人前で泣くような方ではない。そのシーンを見たとき「2020年は頑張ろう」と心中でリベンジを誓いました。

 自分にとっての大会成功は安全に事故なく、混乱なく終わることが一番になります。とっても当たり前なんですけど、その当たり前が大変。何百万人が17日間で動きますから。5年後の五輪が普通に行われ、滞りなく終わる。地味かもしれませんが、それを実現させることが自分の使命になります。

(2015年8月26日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。