「侍義足」で世界一へ。リオデジャネイロ・パラリンピック陸上男子100メートル(切断などT44)5位入賞の全米王者ジャリッド・ウォレス(27)が今季、日本の競技用義足開発メーカー「Xiborg(サイボーグ)」と共同開発契約を結んだ。競技用義足は欧州企業の製品が主流で、世界のトップ選手が日本製を選ぶのは異例。まずは7月14日開幕の世界パラ陸上選手権(ロンドン)に「メード・イン・ジャパン」の義足で出場。3年後の20年東京パラリンピックで金メダル獲得を目指す。

●為末氏ら設立「サイボーグ」と共同開発契約

 全米王者の新たな“相棒”は日本製だ。右足には「Xiborg」の文字。これまでの多くのトップ選手が使っているオズール(アイスランド)製から履き替えた。都内の施設でウォレスは「これまでよりも自然で、体重を前にかけても柔らかく、地面を力強く蹴ることが出来る。3年後には世界一の義足になると信じている」と手応えを語った。

 サイボーグは14年5月、ソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏と、陸上400メートル障害の世界選手権銅メダリスト為末大氏らが共同設立。リオ大会男子400メートルリレー銅の佐藤圭太ら3選手と専属契約を結び、為末氏の知見を生かし義足を作っている。目標は「20年東京大会で五輪の記録を上回る義足の開発」。遠藤氏は昨夏、ウォレスに共同開発を依頼。走り方を分析し、義足の形状や厚み、繊維の種類など細かく意見交換。ウォレスも同社の高い技術力と熱意に共感して先月、契約を結んだ。

 パラスポーツにとって補助具は重要で、陸上の義足は大半のトップ選手が記録が出やすいとされるオズール社かオットーボック社(ドイツ)の製品を使用している。圧倒的なシェアを誇る両社との違いを遠藤氏は「選手と密なコミュニケーションを図り、選手と一体となって義足が作れるのがベンチャーの強み。日本の技術で世界最速を生み出したい」と力説した。

 ウォレスは先月のセイコーゴールデングランプリで、同社の義足を履いて11秒17で3連覇を達成。7月の世界選手権(ロンドン)に向けて「タイムも順調。フォームの改善もしていないし、義足が体にマッチしている」。100メートルの自己ベストは10秒71で、20年までには10秒台前半を目指す。「『ボルト超え』は難しいと思うけど、100、200メートルで世界記録を塗り替えて金メダルを取る。不可能ではない挑戦だね」とさらなる進化を誓った。【峯岸佑樹】

 ◆ジャリッド・ウォレス 1990年5月15日、米国・ジョージア州生まれ。高校時代に州大会の800、1600メートルで優勝。20歳の時、コンパートメント症候群により右足を切断。13年世界選手権200メートル優勝。16年全米選手権100メートル優勝。リオ大会100メートル5位入賞。自己ベストは100メートルが10秒71、200メートルが22秒03。ウイスキー好き。173センチ、66キロ。

 ◆世界パラ陸上選手権 国際パラリンピック委員会(IPC)が創設し、1994年にドイツ・ベルリンで第1回が開催された。当初は4年に1度だったが、11年から2年に1度の開催になった。今年は7月14日から23日までロンドンで開催される。