健常者が車いすに座り、スポーツをやってみたらどうか。こんな単純な疑問から、数年前、ニューヨークのソーホーあたりで、車いすテニス世界王者の国枝慎吾(ユニクロ)、懇意の記者を交えて、夕食がてらパラリンピック談議をしたのが懐かしい。

国枝と外で飯を食うのは初めてで、少し気を使った。しかし、国枝は1人でタクシーに乗り、レストランの前で降り、ほいほいと普通にやってきた。心配し、早めに来て、道に出ていたわれわれを尻目に、早く行きましょうとばかり、レストランに入っていった。

話は盛り上がった。車いすテニスは、テニス界で、障害者スポーツではなく、種目の1つに過ぎない。男女シングルス、同ダブルス、車いすテニスといった感じだ。だから統括団体も国際テニス連盟(ITF)1つだけ。ITFが一般と車いす両方のテニスを統括している。

テニス界の感覚は、車いすという用具を使う新しいスポーツといったところか。こういう見方をすると、俄然、車いすテニスだけでなく、車いすを使うスポーツはおもしろくなる。車いすという用具を、どのように操り、その競技に生かすのかという新しい見方ができるわけだ。

国枝は、車いすの操り方(チェアワーク)が世界一だと言われる。わたしも実際にやってみたことがある。しかし、車いすを動かし、ラケットを振り、球を打つという一連の動きを、どのような順番で手を使えばいいのか全く分からない。球にさえ近づけなかった。

車いすという用具の未来を考えるのもおもしろい。車いすテニス元世界王者のウデ(フランス)が4年ほど前に開発したのは全カーボン製。座面がなく、座るよりも、体を支える車いすといった感じだった。国枝の車いすが100万円以下のところ、ウデのは1000万円以上。それをどう考えるのかもおもしろい。

車いす競技に、健常者が参加してはどうか。どれだけ高度な技術が必要か、よく分かる。そして、ともに戦えば、もっとパラスポーツの奥は深くなり、おもしろみは深まる。見ておもしろいパラスポーツが増えれば、人が動き、お金が回り、ビジネスとして、その競技で生計を立てることも可能になる。それが、パラスポーツの発展にもつながるのだ。【吉松忠弘】