「壁を押しているような感じ。進みたいなと力を出しているけど、戻されるのが強かった」

男子100メートルで東京オリンピック(五輪)参加標準記録(10秒05)の突破を目指した山県亮太(28=セイコー)は、レースをこう振り返った。

それも、そのはず。予選は「自己最高」の向かい風となる8・3メートル。風向きは決勝も変わらずに、同4・7メートルだった。全力で駆け抜けたが、タイムはそれぞれ10秒95、10秒71だった。

「こればかりは運。まだ10秒05を切れるチャンスがある。練習を頑張っていれば、運も味方してくれると思うので頑張ります」。

もはや、どうあがいてもタイムを出しようない無情な風から気持ちを切り替えた。18年福井国体では9秒台、日本新を狙える絶好調の状態で挑んだが、予選は2・1メートル、準決勝は同1・6メートル、決勝は5・2メートルの向かい風だった。それを「思い出すレースでした」。

過去にも風に恵まれないレースは多々ある。10秒01をマークした18年全日本実業団対抗選手権は無風。また直近では、10秒14を出して、復活を印象付けた織田記念もそう。自身は追い風0・1メートルだったが、その5分前に行われたレースは追い風1・6メートルだった。「あんまりこういうの気にならない性格なんですけど、そろそろ気になり始めてます」と苦笑いした。

今大会はスタートに課題を持って取り組んでいた。より重心を前に置く意識を強く持った。その確認の意味も込め、棄権は考えなかった。「また次のレースにつながると思う」と前向きに捉えた。次戦は布勢スプリント(6月6日)の見込みだ。

大事な戦いは、まだ先にある。ここで運を使わなかったことを前向きに捉える。【上田悠太】