新型コロナウイルスによる1年の延期を経た東京五輪の聖火リレーが25日、福島県のサッカー施設Jヴィレッジ(広野町、楢葉町)からスタートした。東日本大震災が起きた11年に、女子サッカーW杯ドイツ大会で初優勝した際の「なでしこジャパン」メンバーが第1走者として走った。7月23日、国立競技場(東京・新宿区)で行われる開会式の聖火台にともされるまで121日間、47都道府県を回る。リレーが原因でクラスターが発生すれば本大会の開催にも大きく影響する難しい事業にもなる。

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378日間待った。昨年3月12日、聖地ギリシャ・オリンピアで太陽光から採火した聖火は、コロナの影響で1年間、ランタンの中でこの瞬間を待っていた。女優石原さとみらが、ランタンから種火を取り出す。巨大な聖火皿にその火が移った瞬間、Jヴィレッジが明るくなった。組織委の橋本聖子会長や大会関係者はその炎を見て涙を拭った。

直線距離で約20キロ、東京電力福島第1原発事故の影響を大きく受けたJヴィレッジ。事故対応拠点として18年7月に一部で営業再開するまで、原発作業員の駐車場や東電関係者の宿泊所になっていた。

震災当時、同所を本拠地とした女子サッカーチーム「東京電力マリーゼ」に所属していた鮫島彩(33)が第1走者として戻ってきた。被災地、岩手出身の岩清水梓(34)がトーチを持つ傍ら、震災と原発事故の苦境から立ち上がったピッチを踏みしめた。

「5年間、マリーゼで毎日ここでボールを蹴って、走っていた。希望の光となるスターターとして走れたことは光栄。最近、明るいニュースがない中で前向きなニュースとして伝わってくれれば」

同じくマリーゼに所属していたタレント丸山桂里奈(37)も「身体の半分は福島でできている。(ピッチを踏みしめ)足の裏が熱くなった」と語った。

出発式を終えた聖火はこの日、原発事故の影響を大きく受けた福島の浜通りを回った。内堀雅雄知事は「(原発立地町の)双葉町を走る範囲はわずかなエリア。カメラはその奥にある住民が入れない場所も映すだろう。震災と東電の原発事故は福島の歴史を変えてしまった。福島の光と影、その両方を世界に伝えたい」と覚悟を持って言った。

121日間で全国を回る聖火リレー。「1年間、困難な状況でも聖火は力強くともされ続けた。小さな炎は決して希望を失うことなく、花開こうとする桜のつぼみのごとくこの日を待っていた。日本全国に希望をともし、暗闇の先の一筋の光として希望の道をつなぐことを願っている」と橋本氏。五輪支持率が低空飛行を続ける中、聖火リレーが国民の気持ちをひとつにする起爆剤となるのか。命運は託された。【三須一紀】