「鬼滅の刃」オランダ組 2人の関係を観客の想像に委ねたマンガ的展開

アイスダンスのオランダペアが「鬼滅の刃」を曲目に取り入れていることはご存じでしょうか。それもエキシビションではなく競技用の曲として。芸術的な要素を多く含むフィギュアスケートでは、世界に散らばる「アート」をスポーツへと昇華できる可能性があります。観戦する人たちの想像力も刺激するオランダペアの挑戦から、フィギュアの膨らむ可能性を想像してみませんか。(2021年11月30日掲載。所属、年齢など当時)

フィギュア

ワルシャワに流れた「竈門炭治郎のうた」

先日、ポーランドのワルシャワで行われたフィギュアスケートの国際大会でのことだった。北京五輪を目指す日本のカップル、村元哉中・高橋大輔組を見ようと、アイスダンスのフリーダンスのライブ配信映像を見ていた多くの人が、同じように思っただろう。「あれ、見たことある衣装だな」。

オランダ代表の女性が着こなしている羽織風は、白を基調にピンクと淡い緑のデザインが施されている。そして、黒の襟付き服をまとった男性の背中には「滅」の漢字。これは明らかに「鬼滅の刃」しかない…。

流れ始めた曲が、正解を教えてくれた。アニメの挿入歌として使われている「竈門炭治郎のうた」が会場に響き始めた。「失っても 失っても 生きていくしかない♪」。日本語の歌詞もそのままに、2人は“氷上鬼滅”の世界を表現していった。

「私達は日本の文化を愛してるし、よく日本のアニメを見ます。スケートの練習と勉強に忙しい日々ですが、アニメを見たり漫画を読む時間は奪えないものですね!」

後日教えてくれた女性スケーターの名前はハナ・ジャクス(21)。そして、コンビを組む男性スケーターの名前はアレッシオ・ガリ(25)。結成5年目、オランダ代表として大会に出場してきた2人だった。

「鬼滅の刃」をテーマに滑るジャクス(左)とガリ(本人提供)

「鬼滅の刃」をテーマに滑るジャクス(左)とガリ(本人提供)

国際スケート連盟(ISU)の公式プロフィルにも、今季のフリープログラムとして「Kamado Tanjiro no Uta (from "Demon Slayer") by Samuel Kim」「Zenitsu Theme (from "Demon Slayer") by Samuel Kim」などの記載がされている。「Demon Slayer」とは海外での「鬼滅の刃」のタイトル名だ。

「最初にアニメを見た時にほれ込んでしまったんです。サウンドトラックを聞いてみて、フィギュアの世界に新しいトピックを持ち込める機会だなと」

2人の意見は一致し、試合のプログラムとして取り組もうと決めたという。

「多くのジャッジの人が作品の事を知らないとは思ってましたが、物語の背景がなくても要素を積みあげて良いプログラムにできる確信はありました。曲自体の力強さと意味深さがあり、世界観を氷の上で演じられると思ったんです」

落とし込んでいく作業でまず考えたのは、2人の関係性だった。物語は兄妹愛を描く。私生活でもカップルの2人には、逆に難しかった。そこでまずはジャクスが大好きなキャラクターの胡蝶しのぶを演じることに。ガリが説明する。

「彼女のこだわりは羽織ですね。正直に言って、かなり大変でした。素材が特別なものだったので、ネットで最良のものを探しました。羽織姿の様相を保つのにはいくつか難しい部分もありましたが、デザイナーと相談し、氷の上でも動きやすく適したものができました。見ている人の期待に応えられると良いのですが」

次に関係性を考えた。今度はジャクスが答えてくれた。

「作品ではしのぶの恋愛の話はありません。ガリは富岡義勇のキャラクターが似合うと思ったのですが、恋愛関係にはない。そこで男性は『鬼殺隊』の匿名の男性のイメージにして、観客の方の想像に任せることにしました」

出来上がったのが、アイスダンスのフリープログラム「鬼滅の刃」だった。

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて17年。25年4月に初の異動で野球部へ配属となりました。競技経験はありませんが、現在は息子が通う少年野球チームで“球拾い”コーチとして奮闘中。記者としても、様々な話題を拾います。ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。クラフトビール好きです。