集大成の全日本は「自分のため」が恩返しに―樋口新葉、友野一希、坂本花織の思い

フィギュアスケートのGPシリーズは最終のファイナルまでが終わり、1週間後の12月19日からは全日本選手権が幕を開けます。GPシリーズ3試合とファイナルを現地取材した記者は、今季を「集大成」と位置づける3人の感謝の言葉に着目しました。

樋口新葉(24=ノエビア)、友野一希(27=第一住建グループ)、坂本花織(25=シスメックス)の言葉を引きながら、「誰のために競技をするのか」について、「Ice Story」としてお届けします。

フィギュア




GPシリーズ・スケートアメリカ 女子フリーで演技を披露する樋口(撮影・藤塚大輔)

GPシリーズ・スケートアメリカ 女子フリーで演技を披露する樋口(撮影・藤塚大輔)


米国で樋口が流した涙


11月中旬のスケートアメリカ。最終日の女子フリー。

樋口はショートプログラム(SP)から3つ順位を落とし、合計159・40点で11位となった。右足痛の影響もあり、GPシリーズで自己最低の得点に沈んだ。

通常であれば、演技後にすぐに取材が始まることが多い。ただこの日、樋口は取材エリアになかなか姿を現さなかった。心を落ち着かせるまでに、時間がかかっているのだろうと想像できた。

報道陣の前に姿を見せたのは、演技終了から10分以上が経過してからだった。

感情があふれるのは、どの瞬間だろうか―。

語られる言葉以上に、感情が露わになる瞬間を見逃さないように努めた。


GPシリーズ・スケートアメリカ 開幕前日の公式練習で調整する樋口(撮影・藤塚大輔)

GPシリーズ・スケートアメリカ 開幕前日の公式練習で調整する樋口(撮影・藤塚大輔)


樋口はやや伏し目がちに、メディアからの質問に答え始めた。

冒頭のジャンプからうまくいかなかったこと。全体的にスピードがなかったこと。思うように体が動かなかったこと。

目にたまった涙の意味を尋ねられると、支えてくれた人の思いを語り始めた。

「もちろん、悔しい思いが1番大きいですが、自分が最後のシーズンで(右足を)ケガしていることもあって、(岡島功治)コーチや周りの人にすごく支えてもらっていると感じていた中で、自分は結果で恩返しをして、良い演技を見せて、周りの人に影響を与えていきたいと思っていたんですけど。でも今日はそれができなかったので、申し訳ない気持ちです」

演技が終わり、リンクサイドへ引きあげる時には、岡島から肩をポンポンとたたかれた。優しい表情で「滑りきれたよ」と伝えられたのだが、そうさせたことが何よりも心苦しかった。

涙が頬をつたう。震えるような声で続けた。

「チャレンジャー・シリーズから滑りきることができないかもしれないと思いながら試合に臨んでいたので。とりあえず最後まで滑り切れたことは(NHK杯に続いて)2週連続で良かったと思うし、そこは自分の体調を考えると良かったなとは思うんですけど。あまりにも目標のレベルが低すぎるので。先生に『滑りきれたよ』と言われたのも、自分としては悔しくて。もっとこう、技術的なアドバイスとか、『次の試合ではこういう風にできたらいいね』という話をするのがベストだと思うんですけど、今の自分にはそれができていないんだなと感じて、すごく悲しかったです」

樋口はその時に浮かんだ言葉に乗せて、素直に今の思いを明かしてくれた。

約5分の取材の中で、最も感情があふれたのは、岡島の話をした時だったと思う。

支えてくれた人の思い。

それが今、胸の内を大きく占めているのだろう。

心を見透かせるわけではないけれど、私はそう想像した。


GPシリーズ・スケートアメリカ 開幕前日の公式練習前に笑顔を見せる岡島功治コーチ(左)と樋口。白いジャンパーを着ている(手前)のはイ・ヘイン(撮影・藤塚大輔)

GPシリーズ・スケートアメリカ 開幕前日の公式練習前に笑顔を見せる岡島功治コーチ(左)と樋口。白いジャンパーを着ている(手前)のはイ・ヘイン(撮影・藤塚大輔)

フリー後に友野の感情があふれた瞬間


前夜の友野の取材でも、同じようなことを感じた。


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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。