決勝12Rは、ドラマチックな結末が待っていた。

3年前に当地で大けがをした伏兵の中本匠栄(33=熊本)が、山田英明(37=佐賀)の1着失格で繰り上がり、初のG2優勝を飾った。脇本雄太(31=福井)は主導権争いで見せ場を作ったが、山田、中本のブロックの前に力尽きた。


ビッグ初制覇を果たして笑顔でガッツポーズする中本匠栄(共同)
ビッグ初制覇を果たして笑顔でガッツポーズする中本匠栄(共同)

ドラマなら、あまりにもでき過ぎたシナリオだ。17年に当地で頸椎(けいつい)骨折。選手生命の危機に陥った中本匠栄が、くしくも3年後の同じ日にG2初決勝で初優勝を手にした。


忌まわしいトラウマは簡単に消えない。今大会の出場が決まるまでの3年間、伊東競輪のあっせんを回避してきた。「正直、走りたくなかった。でも、せっかくいただいたチャンスを無駄にはしたくなかった」。勇気を振り絞って臨んだ。


決勝12Rの九州勢4人は、東京五輪代表の脇本、新田、SS班の松浦といった格上相手に、ラインの「絆」で立ち向かった。山崎が脇本を全力で突っ張り、番手の山田が松浦、新田のまくりを食い止めた。


優勝賞金ボードを掲げる中本匠栄(共同)
優勝賞金ボードを掲げる中本匠栄(共同)

ラインの功労者の失格で転がり込んだ優勝は、手放しでは喜べない。「ヒデ(山田)さんの失格のショックが大きくて、まだ優勝の実感はない。今回は九州の先輩、後輩のおかげ。しっかり脚力を戻して、今度は前を任せてもらえるように頑張る」。慎重に言葉を選びながら恩返しを誓った。


競輪学校(現競輪選手養成所)は6度目のトライで合格。大けがに負けず、リハビリを乗り越えた苦労人が、ようやく日の当たる道を歩み始めた。【松井律】


第36回・共同通信社杯の決勝成績
第36回・共同通信社杯の決勝成績

◆中本匠栄(なかもと・しょうえい)1987年(昭62)4月10日、熊本県宇土市生まれ。競輪学校(現養成所)97期生として10年1月高松でプロデビュー(812)。通算成績は822戦158勝。総獲得賞金は1億4333万9411円。170センチ、70キロ。血液型はO。