モロッコの強さは本物だった。前回カタール大会はアフリカ勢初の4強入り。「番狂わせ」と話題となった。だが今回はFIFAランキング7位の看板はダテではない。王国ブラジルを相手に前半は攻守に圧倒し、終盤にも決定機をつくった。21大会連続で初戦無敗となったブラジルに土がつけてもおかしくなかった。

MF登録のサイバリを1トップにした実質4-6-0のゼロトップ布陣。そのサイバリが自在に動き、ハキミら攻撃的な選手が後方からどんどん前線に走り込む。連動したローテーション戦術にブラジルは手を焼いた。モロッコが見せた組織的かつ献身性、そこに国民性を見た気がした。

アフリカの社会事情に詳しく、著書も持つ友人に話を聞いた。モロッコは北アフリカに位置するアラブ諸国の一つ。イスラム教を国教とする人々は「誇り高く、信仰心に厚く、仲間思い」なのだという。

「現地では“神の思(おぼ)し召し”とよく耳にする。結果はすべて神に導かれるものだから、どんなに追い詰められても彼らは焦らない」。厳しい結果であろうと成長への試練と受け入れる。自然と団結心も固まるようだ。

欧州への入り口。ジブラルタル海峡を挟み、向こう側のスペインへ船で1時間足らずの近さだ。アフリカで最も欧州化された国であり、それはサッカーにも当てはまる。ハキミはスペインで育ち、レアル・マドリード、パリ・サンジェルマンで欧州のトップ選手となった。後に続く母国選手の手本となっている。

「40年以上も前、日が没するまで浜辺で多くの人が懸命にボールを追っていた。みんなうまかったし、この国は強くなると思っていた。昔からサッカー人気はすごかった」

W杯は文化人類学の見本市とも呼ばれる。戦術こそ世界で共有されているが、土台となっているのはその国の文化や慣習だ。森保監督が「凡事徹底」「総合力」を掲げるように、そこには日本社会の価値観や考えが色濃い。ブラジルには即興性やルールを巧みに利用した「マリーシア(ずる賢さ)」の文化が見て取れる。移民国家のフランスには、多様性が彩りとなって表現されている。

ちなみに大西洋を望むモロッコは「日が没する国」と呼ばれ、「日出ずる国(ひいづるくに)」の日本とは対称的だ。ともに勝ち上がれば、決勝トーナメント1回戦で激突する可能性がある。その国を知れば、よりW杯はおもしろくなる。【佐藤隆志】