鳥栖が地方クラブゆえの試練にさらされている。4月25日、14年度の決算を発表し、2期連続赤字となった。選手年俸の高騰や入場料収入減などが影響し、赤字額は約3億6000万円。竹原稔社長(54)は「2期連続赤字はなんと、サガン鳥栖だけ。厳しい内容の決算になった」と唇を結んだ。クラブに3期連続赤字や債務超過がある場合、Jリーグのクラブライセンスは交付されない。今期は背水の覚悟の経営努力が欠かせない。

 竹原社長は「経営でよりハードワークする。自信はある」と強気を見せる一方、「チームの好成績が、売り上げ予測をはるかに上回った。飛躍的な成長と収入がうまくかみ合わなかった」とも語る。勝てば勝つほど出費がかさむジレンマに直面した。J1で3年目の昨季は、12年以来2度目の5位と大健闘。主力の年俸は元日本代表FW豊田陽平(30)の8000万円をはじめ、GK林彰洋(27)と韓国代表MF金民友(25)の4500万円など大幅に跳ね上がった。

 赤字解消や健全経営は、大企業との中長期的なスポンサー契約が結ばれれば問題はないのだろう。しかし「まだ『佐賀ねー…』と言われる。大企業や新興企業が価値を見いだせていない」(竹原社長)と、大口スポンサー獲得に苦しむ現実がある。戦力維持と収支バランスのはざまで奮闘している。鳥栖市の人口は約7万2000人。全国最小規模のホームタウンだが財源に恵まれない地方クラブの雄として、ぜひ難局を乗り越えてもらいたい。

 ただ豊田を含む主力の今季の活躍次第では、さらなる年俸アップは必至だ。それでも竹原社長は「お金がないから選手を切るのが、クラブとして夢のあることなのかどうか。(年俸の)コストカットは簡単だが、それでJ2に落ちれば今まで戦ってきたことが何だったのかとなる」と、主力放出に否定的。「ここで哲学をしっかりつくらないといけない」と気を引き締める。

 過去には09年、担当していた大分がJ2に降格した。その年、巨額の累積赤字を抱えるクラブは、経営再建のため泣く泣く高額年俸の主力を大量放出。経営危機に陥り、ナビスコ杯優勝など積み重ねてきた栄光の歴史が一気に吹き飛んだ。100万都市の福岡市に本拠地を構えながら過去の教訓が生かされず、降格を何度も繰り返してきたJ2福岡しかり。鳥栖もかつて経営難から消滅危機を経験している。

 これまで危機に直面し、ビジョンがブレたクラブをいくつも見てきた。九州で唯一J1の牙城を守る鳥栖も、今後、予期せぬピンチに見舞われることもあるだろう。担当記者としては、逆境を耐え抜き、Jリーグのお手本となっていくことを期待している。【菊川光一】

 ◆菊川光一(きくかわ・こういち)1968年(昭43)4月14日、福岡市生まれ。福岡大大濠高-西南大卒。中学と大学では陸上部に所属し、中長距離走(800~1万メートル)に打ち込む。93年入社。写真部などを経て、現在報道部で主に一般スポーツを担当。プロカメラマンも兼務する“二刀流”記者。趣味は英会話。家族は夫人と1女。