ジレンマを抱えながら、J3相模原が開幕を迎える。

 今季から元日本代表GK川口能活(40)を獲得したほか、FW深井正樹(35)らの戦力を補強し、当面の目標に掲げるJ2昇格に向けて、新シーズンのスタートを切った。川口のチーム初合流の日には、練習場にファンが訪れ、テレビカメラが3台に報道陣も多く駆けつけた。

 川口の獲得に動いた望月重良代表(42)は「選手として年齢以上にパフォーマンスに期待しているし、まだまだやれると思っている。メディアの方々もたくさんきていただいているのを見ると、能活の存在というは大きいと再確認させられる」と効果に驚き「僕らでJ3を盛り上げていければいい」とさらなる期待もする。

 しかし、現状で今季J3で優勝したとしても、来季昇格は不可能という現実の中での開幕を強いられる。

 昇格できない理由はJ2クラブライセンスをJリーグから交付されていないからだ。唯一の問題はスタジアム。本拠地としている相模原ギオンスタジアムはJ2の施設基準を満たしていない。

 具体的には、まず座席数。収容人数は約1万5000人だが、ゴール裏は芝生席になっている。座席のあるメーンスタンドとバックスタンドを合わせ6000席で、J2基準の1万(J1は1万5000)に及ばない。さらに、照明が設置されていないことや、トイレの数、また報道用の部屋も確保されていないのが現状だ。

 スタジアムは相模原市の持ち物で、改修しなければ今のJリーグの制度では昇格ができない。市ともディスカッションを行っている望月代表は「勝ってもJ2に上がれないという状況をつくらないと難しい。行政も含め、協力体制にならないといけない。財務やスタッフ(の基準)は対応できているので、スタジアムが唯一の問題点」と話す。今季中のライセンス申請を見送り、まずは目の前の試合で結果を残すしか、今は手がない。

 一方で、スタジアムを所有する市も頭を悩ませている。スタジアムは07年建設。クラブは翌08年に創設された。当然ながらスタジアムの計画段階で、Jリーグ基準は考慮されていなかった。当初から計画にあり、今後設置予定の照明施設も、一般的な明るさである500ルクスを予定しており、J基準の1500ルクスに及ばない。

 相模原市の関係者も「SC相模原さんに追い抜かされてしまう形になってしまった。市としても改修が必要と思っている。何とかしないといけないのですが、ソフト面にハード面が追いついていない状況。結果として形にできていないことは歯がゆい」と話す。すべての基準を満たすための改修には「少なくとも50億円以上はかかる」という。決して簡単な額ではない。

 望月代表は「個人的な意見」としながら「地方によって抱える問題も違うし事情も異なる。このクラブライセンス制度というのは、本当に必要なのかと思ってしまう」とこぼす。その言葉は現場で戦っているからこそ出る本音だろうし、本質をついているかもしれない。

 勝っても上へ行けないという現実は、モチベーションにも影響が出ることも予想される。状況を理解した上で移籍を決めた川口は「勝つことでサッカーに興味を持ってくれる人が増える。『今年の相模原はいいらしいぞ』と話題になる。ファンの皆さんの関心を呼ぶことができる。勝ってそういったことを味方にしていきたい。ある意味負けが許されない。ミッションとして難しい。けど、将来的に見たときに今が土台になる。土台がなければ未来はない。長期的なものだけど、クラブの歴史に残る。そこをモチベーションにやっていきたい」とピッチで結果を残し、周囲の機運が高まることを願っている。

 このような問題は、決して相模原だけが抱える問題ではないだろう。ピッチの選手は試合に勝つために戦う。ピッチの外で、そんな現実と戦っている人たちの思いも背負って戦う。【栗田成芳】


 ◆栗田成芳(くりた・しげよし)1981年(昭56)12月24日生まれ。サッカーは熱田高-筑波大を経て、04年、ドイツへ行き4部リーグでプレー。07年入社後、スポーツ部に配属。静岡支局を経てスポーツ部に帰任。14年W杯ブラジル大会取材。J担当クラブは東京など。年明け、久しぶりに11対11でのサッカーをして、右足首捻挫、左太もも裏肉離れを負う。