再開されたJリーグは過密日程を考慮し「降格なし」の特別ルールとなった。試合観戦を盛り上げる要素の1つでもあった残留争いがないことに寂しさを感じるが、楽しみもある。純粋に優勝を目指すJ1だけでなく、今季はJ2とJ3の「自動昇格争い」が例年以上に盛り上がるだろう。特に注目しているのはJ3藤枝MYFCの戦いだ。

クラブは今年6月にJ2ライセンス取得に向けた申請書をJリーグに提出。今秋には交付の可否が決定し、シーズン終了時に自動昇格条件の2位以内を死守していれば、来季は晴れてJ2に戦いの場を移す。

14年からJ3に参入し、今季が7年目。J2昇格に向けた動きがようやく本格化した背景には現在の鎌田昌治社長(67)の就任が転機になっている。「藤枝は誰からも愛されて、応援されるクラブにならなければいけない」。藤枝市出身の同社長は地域密着を徹底した経営方針を打ち出した。

自身も名門藤枝東高出身で、高校3年時には主将として全国高校サッカー選手権で優勝。国士舘大卒業後は体育教師となり、母校の監督を務めた際には元日本代表FW中山雅史(52、現J3アスルクラロ沼津)を指導している。元教員から社長に転身。経営者としてはルーキーだったが、地元を愛する気持ちは誰よりも強かった。

「周りの人が『J2を目指そう』と言ってくれる雰囲気を何としても作りたかった」。地域貢献活動を経営の柱とし、選手とともに街中を駆け回った。ホームスタジアム周辺の清掃活動や花の植え替え-。夏祭りには選手を派遣し、クラブの活動を通じて障害者の雇用促進などを支援するプロジェクトも立ち上げた。ホーム開催時には会場の準備と片付けも率先して行う。「小さいクラブは1人何役は当たり前。私も一社員ですから」と奔走してきた。

地道な取り組みに周囲の反応も敏感だった。数十社しかなかったスポンサーは現在176社。就任当初から約3倍に増えた。トップチームの強化方針も「地元にゆかりのある選手を集めた」。19年には藤枝東出身の成岡翔(36、現アンバサダー)や静岡学園出身のMF谷沢達也(35)を獲得。今季はホームタウンの1つになっている牧之原市出身のMF枝村匠馬(33)も加わった。

昨季はクラブ史上最高位の3位。好成績が後押しとなり、市はライセンス取得へ必要なスタジアム改修に動きだしている。鎌田社長は「本当に感謝の気持ちしかない。やっとスタートラインに立てた」。

サッカーどころで有名な静岡はJ1清水エスパルスとJ2ジュビロ磐田、J3沼津と藤枝を含めた計4クラブがある。「清水さんや磐田さんには後れを取ってしまっているけれど、いつかは追いついて追い越したい思いがある。クラブが地域を活性化させる存在になりたいし、私自身も恩返しがしたい。あとは結果を待つのみですね」。今季は開幕連敗から2連勝。勝負のシーズンが始まった。【神谷亮磨】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)