来年6月14日開幕のW杯ロシア大会出場を決めたハリルジャパン。本大会で勝つためには何が必要で、どう進むべきなのか。W杯で日本代表を指揮した監督たちによる連載「W杯を知る男たち ○○論」の第1弾は、日本を2大会に導いた唯一の指導者、岡田武史氏(61=日本協会副会長)の登場です。今回のアジア最終予選を総括し、自らの経験に基づく強化の心構えを「岡田武史論」として3回にわたって提言します。【取材・構成=木下淳】
日本が6大会連続6度目のW杯出場を決めた。岡田氏は「オーストラリア戦は非常にいい試合だった。ひたむきに戦う、泥臭くても勝つ。その覚悟がヘタな戦術を凌駕(りょうが)することを、あらためて証明してくれた」。22歳浅野と21歳井手口の抜てきに乾の2年半ぶり初先発、3ボランチへの陣形変更-。「自分だったら事前に何人かの組み合わせを試したかな、少しテストが遅いかな、と思っていたけれど、よく一気に変えた」とハリルホジッチ監督の勝負手を認めた。
初戦UAE戦に敗れ、現監督は常に解任と背中合わせの最終予選だった。「いろいろ批判もあったようだけど、自分の時に比べればまだマシ」と笑いながら「心配はしていなかった」と続ける。なぜか。眼鏡を指で上げながら「アジアのレベルが上がっていないから」と指摘した。
懸念の裏返しだ。前回ブラジル大会。アジアの4代表は1次リーグ計12試合で1勝もできず、すべて最下位に沈んだ。3年後。「アジアは下位が伸びた半面、上位の国がそれほど強くなっていない」。その中で予選1位通過はしたが「心配だ。海外組が増えて個々では経験しているものの、チームとしては高いレベルを体感できていない。欧州や南米は予選が強化の場になるが、アジアでは難しい。さらに予選のレベルまで高まっていないとなれば、本大会では痛い目に遭う可能性がある」と警告した。
第2次岡田ジャパンは予選突破後の09年9月、敵地でオランダと対戦。前半から飛ばして0-0で折り返したが、後半は想像以上の消耗と「個」の差で0-3に。それでも有益だった。「ペナルティーエリアの外5メートルから打たせたらダメ、と教えてもJリーグでは枠に飛んでこない。さらに、相手ホームだと最後に足を出してくる迫力も変わるし『やられる』という感覚を肌で感じておかないと、わずかな差が大きな差になる」。10年南アフリカ大会直前にはイングランドやコートジボワールに4連敗したが「外国人監督は勝って気持ち良く大会を迎えたい人が多いけれど、できるだけ強国と。まだまだ面食らう危険性はあるから」。
岡田氏の時は、初戦カメルーン戦10日前のコートジボワール戦で光が差し込んだ。変則で加えた45分×3本目で新布陣をテスト。「4-5-1で中盤5枚を真横に並べる発想がハマッた」。同4日前に急きょジンバブエとの練習試合を組んで同じ形を試し「0-0だったけど、本当にいい内容で。ずっと、いつ方針変更すべきか、厳しいのは分かるけど勇気が…と悩んでいたが、土壇場で違和感が解消された」。後のベスト16につながる決断だった。
当時を思い返し「自分のようにギリギリで変える必要はないが、ハリルホジッチ体制はまだ強豪と戦っていない。これから気づくことは多いはずだ」。事実、ハリルジャパン全29試合のうちアジア以外との対戦は3試合だけ。すべて国内で“2軍”レベルだった。11月は強豪相手の海外遠征が見込まれるものの、来年3月以降は-。岡田氏はフランス大会の組み合わせ抽選会後、その場で監督同士がマッチメークを固める姿に衝撃を受け、南アフリカ大会では各国監督と直談判した。12月1日のロシア大会抽選会も、日本にとって勝負の場になる。(つづく)
◆14年W杯ブラジル大会のアジア勢 最終予選A組1位のイラン(当時のFIFAランク49位)と2位韓国(同56位)、B組1位の日本(同44位)と2位オーストラリア(同57位)が出場。イラン、韓国、日本が1分け2敗、オーストラリアが3戦全敗で計12試合して3分け9敗。98年フランス大会、06年ドイツ大会に続くアジア勢1次リーグ全滅で、4チームすべて最下位は史上初の屈辱だった。