10年南アフリカ大会でMF本田を1トップに抜てきした元日本代表監督の岡田武史氏(61=日本協会副会長)。今、その本田がハリルジャパンで岐路に立たされている。「岡田武史論」の最終回は若手とベテランの融合について。
岡田氏は、本田が前半45分だけ出場し、0-1で敗れた最終予選サウジアラビア戦を見て「寄せられて失う場面が目立った。明らかに試合感覚の問題」と認めざるをえなかった。ただ、本大会まで9カ月ある。「全く難しい状況ではない。時間がある。本田が戻ってくれば、また競争させればいいだけの話」と心配していない。一方で「本田だけでなく長谷部、香川、長友のように経験豊富な選手と若手をどう融合させていくか。今後、最も重要なポイントになる」と指摘した。
南アフリカ大会ではGK川口を23人目でサプライズ選出した。「融合は先発11人に限らない。どんな形で23人のチームをつくるか。あの年、川口は負傷もあって1試合もリーグ戦に出場していなかった。もし試合できないままなら選べないが、ひそかに動向を追い、治って試合できる確約が取れたので呼び、チーム主将を任せた。第3GKの立場でピッチに立てなくても、チームが勝つために練習から必死にやってくれれば、若手はふてくされるわけにいかない。23人のうち2、3人は決勝トーナメントまで進んでも出番がない。そこをどう選ぶか。チームづくりで見逃せない要素だ」。
実際、川口はピッチ内外で貢献した。誰よりも汗をかき、宿舎の食事会場でテーブルを巡回。そこには、09年9月のオランダ遠征で「FK争奪戦」を繰り広げた中村俊と本田が隣り合って食事する光景もあった。
大会中のベースキャンプ地も極めて重要になる。重視すべきは気候か、試合会場までの距離か、施設の充実度か。岡田氏は「一番は、静かで周囲の影響を受けない環境だ」と即答する。
「1カ月半にもなる合宿ではメンタルが大事になってくる。気分転換できる環境が必要。南アフリカのジョージは素晴らしかった。街中が危険で外出できない国だったから、施設内でリラックスできるように。ゴルフ場があったり、食堂まで森の中を歩いたり。ホテルの部屋に缶詰めじゃ変になってしまう」。東京ドーム130個分の敷地にジムやスパもあった保養地を拠点に16強。同じく16強の02年日韓大会も、トルシエ監督は周囲からの遮断を最優先し、静岡のホテル葛城北の丸を選んだ。露天風呂などでくつろげる環境だった。
最後は信念だ。岡田氏は、カズや中村俊を外すなど難しい選択を重ねたが「選手に好かれる必要はないし、本気でベスト4を目指す中で、背く行動を取った選手を合宿から追放したこともある。重力がなければ人間は骨がダメになってしまうように、たたかれることも1つ。ある程度の重圧や緊張感は必要」と主張した。
ハリルホジッチ監督は日本を8強に導けるのか? 「個性が強烈で選手は大変かもしれないが、今の選手は自分で考えられる。トルシエ監督の時はまだ影響されていたけど、もう心配はない。ぜひ頑張ってほしい」。残り9カ月。たくましさを増していくだろうチームを、日本協会副会長の立場で見守っていく。(おわり)【木下淳】