サッカー日本代表は、ドイツでの欧州遠征(23日米国戦、27日エクアドル戦)で、新ユニホームを初着用した。

ワールドカップ(W杯)カタール大会(11月20日開幕)で袖を通す“戦闘服”は、正式発表を前にサッカー漫画「GIANT KILLING」(講談社、週刊少年マガジン)、「ブルーロック」(講談社、モーニング)で登場。SNS上で話題となった。なぜ“リーク”されたのか? 折り紙をモチーフに、ちりばめられた未完成の折り鶴とは? マーケティング、デザインの両面から公式サプライヤー、アディダスジャパンの狙いを探った。【取材・構成=栗田尚樹】

 

<マーケティング編>

7月下旬。漫画「ブルーロック」の表紙が世間をざわつかせた。描かれたものが、「日本代表の新ユニホームでは? 」とSNSなどで話題となった。直後には、ユニホームの情報を発信する海外のサイト「FOOTY HEADLINES」が「日本代表のW杯用ユニホーム」とリーク。“騒動”は続いた。その数日後には同じく漫画「GIANT KILLING」でも、同じデザインのユニホームが描かれた。SNSで「流失はまずい」など、心配の声が多く上がった。

ただ、アディダスジャパンは、8月29日の発表まで“あえて”沈黙を貫いた。同社の福田新さんは「心苦しかったですよ(笑い)。でも、何も反応しないことで、その真偽性がより高まる」と狙いを明かした。従来の一斉発表では関心は一時的なもの。情報を「先行公開」することで興味の継続性を保った。

“わざと”流出させるため、社内でも情報の取り扱いには細心の注意を払った。福田さんは「すみません。グループの人数は言えません。期間も申し訳ないです」。同社でも、ごく限られた一部の人間、そしてドイツのアディダス本社と連携を取り、極秘に計画を進めてきた。

国々によって“リーク”はさまざま。日本での漫画による先出しは、アディダス本社との話し合いの中で、「日本の文化といえば、やはり漫画だろう」と合致した。W杯カタール大会で、C組のメキシコでは、有名なタコス屋の店員が仕事中に新ユニホームを着用。元から人気店ということもあり、SNSで話題となることは時間の問題だった。

日本のライバル国も、あらゆる仕掛けで関心を集めた。W杯で日本と同じE組のドイツは、有名なインフルエンサーがドイツの新ユニホームを着用する画像をSNSで“あえて”載せた。スペインでは、ゲーム配信で人気の若者が、配信中にスペインの新ユニホームを着用。「あれは、何だ?」と話題を呼んだ。

文化と風土に合わせたマーケティングが、そこにはあった。

 

<デザイン編>

アディダスジャパンの高木将さんは言う。

「ユニホームの折り鶴は、未完成なんです。ピッチ上で着る選手たち、そして選手を応援するサポーターで、完成させて欲しいんです」

「ORIGAMI(折り紙)」をモチーフとしたユニホーム。その全体にあしらわれた折り鶴。未完成であり、ユニホーム1枚、1枚ごとに折り鶴の形、デザインが違う。「ランダムグラフィック」という手法。手に取る1人、1人の個性を表している。

02年のW杯日韓大会決勝後の表彰式(横浜国際)で、270万羽の折り鶴が舞った。そこから着想を得た。高木さんは「折り鶴は形として美しいだけでなく、そこに願いや思いを込められる。それとユニホームを重ねている部分があり、そういう思いを折り紙で表現している」と思いを込めた。

折り鶴は日本独特の文化。折り鶴を成す折り紙は、世界共通の文化でもあった。アディダス本社のあるドイツでも、「ORIGAMI」は一般的なものだという。高木さんは「向こうのスタッフも『ドイツでは養護施設などで、リハビリや遊びで使われている』と言っていて。折り紙はORIGAMIという言葉になっている」とうなずいた。

日本人なら、どの世代も手に取ったことがある折り紙。高木さんは「若い人だけではなく、いろんな世代の人にこのユニホームを着て応援してほしい」。20年前の歓喜のシーンを、日本代表にも達成してほしいと願う。