【済南(中国)7日=鎌田直秀】MF沢穂希(33=INAC)が、なでしこの歴史を背負って、きょう8日の北朝鮮戦に臨む。五輪予選の北朝鮮戦といえば、04年のアテネ五輪アジア予選で、3万超の観衆を集め、なでしこの存在を日本中に知らしめた歴史的な1勝が、あまりにも有名。現メンバーにとっても日の丸を背負うことの偉大さを実感した原点だ。勝てば3大会連続4度目の出場が決定する大一番に向けて、約1時間半の調整をしたなでしこ。「勝ち点3をとって決めたい」。沢の言葉にも力がこもった。

 沢の視線は北朝鮮に勝つことだけに向けられている。今まで経験したことのない中1日での戦い。暑さや厳しい展開で疲労度はピークに達している。「ずっと連戦でやってきて紅白戦をやるのは、う~んって感じではあったけど、良い準備はできてます」。沢はコンディションの回復に力を振り絞っていた。

 この日も全体練習後は、シュートなどの個人練習には加わらず、1人で黙々とランニングやストレッチなどに多くの時間を費やした。北朝鮮戦へ向け「90分走り続けること。攻守どちらもしっかり頑張ります。今大会は内容より結果がすべて。泥臭くても1点をとることが大事」。沢にとっても、北朝鮮はアジアの中でも特別な相手。奮起を促す歴史も心の奥底にある。

 04年4月24日のアテネ五輪アジア予選。北朝鮮戦は国立競技場に3万人以上が詰め掛けたなでしこの歴史的一戦。大会中に右膝の半月板を負傷し、痛み止めを打ちながら強行出場した沢。意識もうろうで試合内容すら覚えていない中でもファーストプレーから相手を吹き飛ばすほどの気迫を見せた。仲間がこの一瞬で勝利を確信した沢神話だ。

 当時指揮をとっていた上田栄治団長も「北朝鮮に7連敗中だったし、相手の力が上なのは分かっていた。ケガはひどかったが、沢がいないで試合するなんて想像もしなかった。今となれば勝ったことはとても大きかったと思う」と振り返った。W杯ドイツ大会の試合前に佐々木監督は東日本大震災のビデオを見て気持ちを高ぶらせたが、この試合の前も国立のロッカールームで選手たちの好プレー集などを見せている。感極まった選手たちは涙を流しながらピッチに立ち、激戦を制した。

 DF矢野、FW丸山はピッチに立ち、FW安藤、永里優はベンチで雰囲気を共有した。スタンドには日体大のFW川澄や、常盤木学園高のDF鮫島ら、今のなでしこを支える選手の姿もあった。

 「あの試合から私はなでしこでプレーすることを想像して、やってきました。あの時は沢さんの背中を追い掛けていた。今は良いチームメート」と言う川澄は主力に成長。鮫島にとっても「鳥肌がたった。3得点したシーンも、DF陣が体を張って守っている印象が残っている」と、現在の根底を支える試合だ。7年たった今、大一番の相手が北朝鮮なのも運命だ。

 沢は大会前から「今まで女子サッカーを支えてくれた人たちのためにも」と自分たちだけでなく、女子サッカー発展の気持ちを背負い戦ってきた。この日はあえて「私は過去は振り返るつもりはありません。明日やるだけ。しっかり勝ち点3で決めたい」と目の前の一戦だけに集中した。W杯優勝だけで終わってしまっては意味がない。五輪切符をつかみロンドンでメダル獲得という結果を残すためにも、沢の全力をぶつける。