J2で18位のヴァンフォーレ甲府が、歴史に残る下克上を完結させた。J1で3位のサンフレッチェ広島相手に延長を終えて1-1で、PK戦を5-4で制した。在籍20年目の“ミスター甲府”DF山本英臣(42)が延長後半にPK献上のミスも、PK戦では5人目のキッカーを務めて初優勝に導いた。00年に債務超過で存続危機に陥ったクラブは、奇跡の日本一で来年のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の出場権を獲得。クラブとともに歩んできた山本は、万感の思いで優勝カップを掲げた。J2勢の優勝は11大会ぶり。

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歴史的な優勝は「ミスター甲府劇場」だった。1-1で迎えた延長後半11分、山本は腕にボールが当たりPKを献上。「人生が終わった感じ。引退も考えた」。崩れ落ちたDFを横目に、GK河田が広島のキックを奇跡の阻止。九死に一生を得た42歳はもつれ込んだPK戦で最後のキッカーを務め、ゴール左上のネットを揺らした。山あり谷ありの展開に終止符を打ち、天皇杯初Vをもたらした。

山本は「この舞台に連れてきてくれたチームメートに感謝をしてます。ただそれをぶち壊しそうになったんですけど、河田選手に助けてもらった。これで少しだけ恩返しができたかな」と喜びをかみしめた。イレブンからは「オミさん(山本)がPKを外したのは見たことがない」と全幅の信頼を寄せられていた。

山本の加入当時、甲府の寮は明かりがついておらず、初めて行った際は通り過ぎてしまうほどさびれていた。練習場を転々とし、練習着の数も少なく自分で洗濯をしていた。クラブは00年に債務超過で存続危機に陥り、山本が市原(現千葉)から加入したのは03年。少しずつクラブが危機から立ち直り始めた頃だった。表彰式ではMF荒木主将からカップを渡され、高々と掲げた。「長いこと甲府でやらせてもらって本当に良かった」と万感の思いを口にした。

チーム名はフランス語の「ヴァン(風)」と「フォーレ(林)」から。戦国時代の武将、武田信玄の旗印「風林火山」に由来している。紆余(うよ)曲折を経て今季、J2ながらJ1に5連勝で天下統一。下克上を決めた。昨年度の経営規模は広島の約3分の1。育った選手はJ1に引き抜かれる。その中でも将来性のある大学生を獲得など、創意工夫を重ねてきた。

山本は在籍20年と甲府を貫く。ベテランの背中を見てMF荒木も今季、「お金より甲府への愛を貫きたい」とJ1オファーを断り、残留を決めた。山本は「小さいクラブだったけど何倍も努力するクラブ。そのおかげでいいクラブになった」。過去にはJ1昇格を機として環境などの充実につなげてきただけに「今回の優勝もそういうきっかけになれば」。クラブの発展の契機となることを願った。

来年はJ2でACLに挑戦。「真摯(しんし)にサッカーに向き合いたい」。初心を忘れず、大ベテランはクラブとともに成長を誓った。【岩田千代巳】

◆ヴァンフォーレ甲府 甲府市、韮崎市を中心とする山梨県全県をホームタウンとするクラブ。65年に「甲府クラブ」として創設され、99年からJ2に参加。00年に債務超過が発覚し存続が危ぶまれたが、県民の署名活動などの支援を受けて再建。06年にJ1初昇格を果たす。タイトルはこれまで12年J2優勝の1回。チーム名はフランス語の「ヴァン(風)」と「フォーレ(林)」の組み合わせで、戦国時代の武将、武田信玄の旗印「風林火山」に由来している。

○…殊勲の先制ゴールを挙げたのは甲府の“アフロ三平(みつひら)”だった。前半26分、左CKからの流れでMF長谷川、荒木とつなぎ、ゴール前に入ったFW三平が右足を合わせた。注目を浴びたのが、その髪形。Jリーグ公式サイトの顔写真ではサラサラヘアーだが、まるで別人のようにボリュームたっぷりのアフロヘア-。これにはSNS上も「三平のオフィシャル写真はよアフロに変えな」など大盛り上がりだった。

◆天皇杯 今大会が102回目。2342チームが参加した。11月にW杯カタール大会が始まるため、決勝は恒例の元日ではなく10月に開催された。優勝チームは来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得。チーム強化費として1億5000万円(税別)が与えられる。ちなみにJ1の優勝賞金は3億円、2位が1億2000万円、3位が6000万円。J2の優勝賞金は2000万円となっている。

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