アビスパ福岡がJ参入28年目で初の栄冠をつかんだ。川森敬史会長(57)は、都内での祝勝会後に「(優勝カップが)関門海峡を渡るのは(08年ナビスコ杯優勝の)大分以来15年ぶり。優勝カップを福岡に持ち帰ることは、無冠のクラブには意味がある」と喜びを口にした。

苦難の道のりだった。福岡移転当初の95年は専用グラウンドがなく市内の運動公園などを転々。一般客に交じり100円のコインシャワーを利用した。洗濯用の一軒家を借りた。クラブハウスを併設する雁の巣球技場の使用は98年からだ。

13年には運転資金約5000万円を準備するメドが立たず、選手への給料遅配が懸念された。15年に不動産賃貸仲介業大手アパマンショップが経営に参画。同会長は「どこもどんぶり勘定が多かった」。「聖域」だった強化部も経営会議に参加させて、部門ごとの予算を、厳格に守らせた。

しかし、すぐに結果はでなかった。19年はJ2で16位と低迷。「勝てない、売り上げは右肩下がり、成績は最悪だった」と同会長。19年12月にはベルギー1部シントトロイデンの立石敬之CEO(最高責任者、54)を顧問に招いた。立石CEOは今春から福岡の副社長も兼務。育成面のモデルは福岡-シントトロイデンで羽ばたいたDF冨安健洋(24=アーセナル)。立石CEOは「『冨安だったら、何度でもつくれますよ』というノウハウ、経験があってのアビスパの育成。物差しは今、世界」と言う。

昨年度売上高約28億円のクラブが描くロードマップがある。今季は「J1残留&カップ戦上位」を達成。次はJ1の5位以上、売上高50億円、強化費20億円。そして立石CEOが描く未来は壮大だ。「(クラブが)福岡にあることはすごく可能性がある。魅力的なチームとしてブランディングを。東南アジアでの人気も確立させたい」。最大の目標は予算規模100億円。初優勝は、その実現に向けた第1歩だ。【菊川光一】