「山の神」ではなく「湘南の神」が降臨し、青学大が3連覇と大学駅伝3冠に王手をかけた。湘南の海岸線を走る3区で、秋山雄飛(4年)が2年連続の区間賞でトップに浮上。「山の神」不在の5区での貯金を確保し、2位早大を33秒差で振り切る5時間33分45秒で3年連続の往路優勝を飾った。今日3日の復路は、午前8時にスタート。往路、復路を制しての総合3連覇となれば、1937年(昭12)の日大以来80年ぶりの快挙になる。

 神懸かっていた。8日前まで出場を絶望視されていた秋山が懸命に腕を振る。左に相模湾、正面に富士山を望む13・1キロ地点。「富士山はきれいだな」と楽しみながら、首位に立つ。2年連続の区間賞。テレビ解説を務めた「山の神」こと、先輩の神野大地(現コニカミノルタ)から「湘南の神」と命名された。

 1区候補だった1年生の鈴木が故障。代役の梶谷(2年)は4位と健闘も、逆転を狙った2区のエース一色(4年)は、神奈川大の後塵(こうじん)を拝す。狂ったプランを修正し、救世主になったのが「湘南の神」だった。

 原監督は「1年365日で、350日以上、死んでいた」と振り返る。昨年も同じ3区で区間賞も、その後は原因不明の不調に陥った。4、6月の大会の5000メートルは16分台と中学生時代の記録まで低下。精密検査で軽いぜんそくは判明したが、肉体的な問題はない。原監督はもちろん、チームメートからも一時はさじを投げられた。

 12月に入っても調子は上がらない。第1次メンバー選考を兼ねた同14日の1万6000メートル、同22日の5000メートル×2本も凡走。原監督も「500%使えない」と胃が痛むほど悩んだ。「もうメンバー入りは無理」とあきらめかけた。

 秋山はもともと、ネガティブで浮き沈みの激しい性格。佐藤トレーナーから「体は悪くない。箱根を気持ち良く走る方法を見つけよう」などと、毎日1時間の対話。昨年3区区間賞の成功体験をよみがえらせ「湘南の神になりたい」と言うまでにメンタルを回復させた。本番8日前、最終選考で好走し、メンバー発表前日28日に選出された。

 この日は勝利より「湘南の神になる」と考えて不安を打ち消し、湘南の風に吹かれた。「支える方がいなかったら、今も膝を地面につけたままでした」と独特な表現で喜びを表した。

 最大の懸案材料だった秋山に「神」が降臨し、往路制覇。V3と大学駅伝3冠に王手をかけた。早大と33秒差。原監督は「うれしい誤算。100点満点。復路も強いランナーがそろう。V3&3冠へ、ドーンと構えていきたい」と余裕を見せた。地獄からはい上がった「湘南の神」が、青学大の快挙へ準備を整えた。【田口潤】

 ◆秋山雄飛(あきやま・ゆうひ)1994年(平6)5月2日、兵庫県三田市生まれ。小学3年から陸上を始める。三田学園中3年の全国中学大会3000メートル4位。須磨学園高3年の全国都道府県対抗駅伝4区区間新記録。13年に青学大入学。今春からは中国電力に入社。愛称は「隊長」。好きな女優は堀北真希。178センチ、60キロ。

 ◆優勝メモ 往路と復路をともに制しての総合優勝は、過去12校が41回達成。そのうち、3年連続で成し遂げたのは、第16回大会(35年)から4連覇した日大だけ。青学大が復路に優勝し、3年連続での往路と復路の優勝を遂げると戦後初、歴代2度目の快挙となる。

 ◆大学駅伝3冠 10月の出雲、11月の全日本、翌年1月の箱根を制すること。90年度の大東大と00年度の順大、10年度の早大が達成した。青学大が実現すれば、6年ぶり史上4校目。箱根3連覇は、04年駒大以来、13年ぶりになる(駒大は05年まで4連覇)。