本職は200メートルの飯塚翔太(25=ミズノ)が100メートルで日本歴代7位となる10秒08をマークした。追い風1・7メートルの1本目で自己記録を4年ぶりに0秒12更新する10秒10を出すと、同1・9メートルの2本目では10秒0台に到達した。6月の日本選手権では200メートルに専念するため、100メートルでの世界選手権(8月、ロンドン)代表入りは難しいが、練習として出場したレースで驚きのタイムを残した。

 飯塚はフィニッシュして電光掲示板を確認すると、困惑しながら笑った。映し出された数字は10秒08。本職である200メートルの前半の加速力強化のために出場した100メートル。目標は10秒22の自己記録更新だったが、1本目でいきなり10秒10。「びっくりしました」。200メートルの世界選手権参加標準記録(20秒44)もまだクリアしてないのに、桐生と山県だけだった100メートルのそれを突破した。2本目は中盤で抜け出し、追いすがるケンブリッジからも逃げ切った。さらに0秒02縮めた10秒08は日本歴代7位。「予想してなかった。このスピードを体感できたのは収穫」。2度も自分自身に驚いた。

 探究を惜しまない。オフの米ロサンゼルス。飯塚は日本人初の200メートル19秒台へのヒントを探りに、スポーツ研究機関に出向きフォームを分析した。はじき出されたデータに「スタート時、左足を20センチ前に出す方が速い」とあり、自分に合うスタートを模索した。「肩から前に出す」独特の感覚にたどり着き、序盤の加速が磨かれた。また、ストライドが狭く、185センチの体格を生かせていないことも分かり、下半身を鍛えて地面を蹴る力を高めた。いつしか100メートルでも戦えるスピードが備えられた。

 200メートル19秒台は世界で現在66人。100メートル9秒台のおよそ半数しかいない。昨季は10秒3台だった100メートルの折り返しを「10秒20~24」にするのが目標だった。自己記録20秒11を持つ男は、もうそれ以上の力があると証明した。9秒台より高い壁を突破する夢が大きく膨らんだ。【上田悠太】