【ロンドン=上田悠太】決勝進出と9秒台の夢は、4歩目で散った。男子100メートル準決勝で、サニブラウン・ハキーム(18=東京陸協)は10秒28(向かい風0・2メートル)で2組7着。スタートから4歩目で右足のバランスを崩したミスが致命的となった。予選は10秒05をマークし、世界最年少での決勝進出へ期待は膨らんだが、思わぬ形で逃した。

 日本人初、そして史上最年少での決勝進出の期待が高まる中、サニブラウンが予想できない展開で散った。問題はスタートから4歩目に起きた。右足が外に流れてバランスを崩す。左足で踏ん張り、持ち直そうとするも、上体は前に大きく倒れた。「ああ」。自己記録9秒69のブレークら、9秒台ランナーが4人いる世界選手権の準決勝では致命的ミス。「おそらく巻き返せなくはなかったと思うのですけど、少し気持ちが切れちゃった部分がありました」。7着でゴールすると、頭を抱えた。地面に手をつき、しゃがみ込んだ。

 取材エリアに現れると開口一番、悔しさを押し殺すように笑い飛ばした。

 「いや~やらかしましたね。盛大にやらかしましたね」

 そして「4歩目」に至った事情を説明した。10秒05を出した前日の予選は、スタートで背中がやや起き上がった上体で出ていたという。レイダー・コーチと相談し、より低い体勢に修正。すると「足が上がってこなくて」。決勝進出を見据えた攻めの姿勢だったが、これが裏目に出た。

 「行ける気しかしてなかった。下手したらメダルまで狙えたんじゃないか」と決勝を現実的に見据えていた。昨季の自己記録10秒22からの急成長は、英会話の能力が下支えする。父はガーナ人で、幼少期から家族でのコミュニケーションは英語。高校まではCS放送で海外アニメや映画を英語で見るのが習慣だった。

 このおかげで、多くの選手を育てたレイダー・コーチとは英語で会話。名伯楽の言葉の機微や指導の意図を直接、吸収できた。言葉の壁がないから、リオ五輪の女子400メートルリレーで連覇を達成したバートレッタ(米国)らチームメートともすぐなじめた。

 9月から米フロリダ大に入学する。それも語学力なくして不可能な挑戦だ。今大会はあと200メートルと400メートルリレーに出場する。「この敗因を今後につなげられたら」。あと2種目、暴れたい理由がまた増えた。