無名のニューヒーローが、青学大を4連覇に導いた。出雲、全日本、箱根の3大駅伝初出場だった林奎介(3年)が7区で1時間2分16秒の区間新記録を樹立。12年の設楽悠太(東洋大)が持つ記録を16秒短縮した。首位でタスキを受け、2位東洋大と52秒だった差を、3分28秒に拡大する快走。大会の最優秀選手(金栗賞)に選出された。

 優勝会見後、心境を問われた林は、右頬を軽く3度たたいた。「こんな気持ちです」。夢ではない-、と確かめた。出雲も全日本も箱根も出場経験なし。そんな男が、満場一致の即決で金栗賞に選出され、青学大V4の立役者となった。

 6区で逆転し、首位固めをしたい7区。林は追い風に乗り、序盤から飛ばした。10キロ地点で原監督から「区間記録が出るぞ」と励まされた。「気持ちが浮ついて、きつくなりました」と笑うが、16キロ地点で「(区間記録が)完全に出るぞ」と気合を注入されると、「よっしゃ」と吹っ切れた。東洋大との差を3分28秒に広げ、8区エース格の下田へたすきを託した。「人生の中でも印象に残る。先頭でリズムよく気持ちよく走れた」。7区での逆転をもくろんだ東洋大の策を完全に打ち砕いた。

 走れる喜びを力に変えた。前回大会も7区でエントリーされていたが、当日の選手変更で控えに回った。今季の出雲、全日本はけがの影響もあり、メンバー争いにすら絡めず、寮でテレビ観戦していた。入学時は5000メートルで15分台で、チームではほとんどビリ。「入学を間違えたかな」と悩み、選手として見切りをつけられ、マネジャーに転身を勧められる「覚悟はしていました」。スピードでは勝てないと、徐々にハーフマラソンで結果を残し、ついに鮮烈な駅伝デビュー。「エースに近い存在になれたのかな」。2月には東京マラソンに出場予定だ。

 チームでは盛り上げ役で、お笑いコンビ「流れ星」の「ちゅうえい」のモノマネなどが得意という。この日も「神野さんとかの前で一発芸をやっていたので、いい緊張感で臨めました。プレッシャーに強くなりましたね」と一発芸のおかげ? を強調した。ハーモニー大作戦を仕上げたのは、そんな秘密兵器だった。

 来季は林を中心に出場した10人中7人が残る。原監督も、来季は東洋大を警戒した上で「V5も達成可能」と言った。まだまだ黄金時代は終わりそうにない。【上田悠太】

 ◆林奎介(はやし・けいすけ)1996年(平8)12月24日、千葉県柏市生まれ。千葉・豊四季中ではバスケットボール部で2年時に補欠ながら県大会3位。引退後、長距離を練習し、市内の駅伝大会に出場すると、柏日体高からスカウトを受け、陸上に転向。青学大入学後はけがに苦しむも、昨年11月にハーフで1時間3分28秒、1万メートルで29分5秒97の自己記録をマーク。趣味はカラオケで、よく歌うのは米津玄師の「ピースサイン」など。174センチ、59キロ。