全体的に予選も含めレベルが高くなった。これまでは37秒台ならメダル、37秒4台で金メダルに近づくタイム。だが、今大会は37秒台のカナダが予選敗退。驚いた。世界リレー大会の開催など国際陸連の施策もあり、他国の技術も向上。米国は1走に100メートル優勝のコールマンを配置。英国らライバルにプレッシャーをかけ金への道をつくった。その中で日本は日本らしく最小限のミスで日本記録。現状の力は発揮した。

アンカーのサニブラウンは加速すると安心して見ていられる。これは1走から3走に「サニブラウンにつなげば」という安心感をもたらした。その存在は大きいだろう。3走の桐生はリオ五輪銀のメンバーで唯一の出場だったが、立派な走りだった。やはり桐生が3走にいると締まる。今大会は100メートルで準決勝に進んでリレーに臨んだ。彼が望む形で大会に入れたことも走りに好影響だった。

日本はこれまでアンダーハンドパスを改良し、バトン技術で他国との差を詰めてきた。そのバトンワークで他国のミスを誘うこともあったが、他国も研究している。東京五輪金メダルにはサニブラウン、小池、桐生らの中から100メートルでファイナリストが出ること。それがリレーで金メダルをとるチームだ。決勝は1走で9秒台の小池が外れ、多田が起用された。過去の日本では考えられないこと。「調子さえ良ければ、起用される」という意識を選手が持つことは重要。どの競技でも、チーム内競争が成長につながる。米国などがそうだが、日本もいよいよその域に入ってきた。(男子100メートル元日本記録保持者)