2020年東京五輪の男女マラソンと競歩のコースについて国際オリンピック委員会(IOC)は16日、暑さの厳しい東京から札幌への変更を検討していると発表した。今月30日から3日間、都内で行われるIOC調整委員会で、大会組織委員会と東京都などと議論する。トーマス・バッハ会長がコメント付きで提案しており、IOCの意向は強い。マラソンが開催都市で実施されないとなれば、1896年アテネ五輪からの近代五輪29回目で初となる。

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五輪の目玉、マラソンが開催都市で行われない異常事態に発展する可能性が出てきた。酷暑対策として男女マラソン、競歩のコースを札幌に移すようIOCが提案。先送りできない大きな課題のため、今月末の同会議で一定の結論を出すとみられる。

IOCバッハ会長は「選手の健康は常に懸案事項の中心。マラソンと競歩の変更案は懸念を深刻に受け止めている証しだ。選手に最高の状態を確保する措置だ」と力強くコメント。IOC会長が強く意向を示していることから、覆すのは難しいと見る向きもある。

国際陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長も「選手に最高の舞台を用意することは重要。最高のコースを用意するためにIOCや組織委などと緊密に連携していく」とコメントした。一方、取材に応じた日本陸連の横川浩会長は「寝耳に水。情報収集して今後の対応を見極めたい」と、知らされていなかった。

複数の関係者によると、IOCからの提案は今月に入ってからだった。9月27日(現地時間)に行われた陸上世界選手権の女子マラソンが、深夜11時59分スタートだったにもかかわらず、高温多湿のため4割以上が棄権。これをIOCは重く見た。

東京五輪でもスタート時間を早め、マラソンは午前6時、男子50キロ競歩を同5時30分とし、暑さ対策を行ってきたが、これでは足りないと判断した。

水面下の動きが一部、表面化していた。組織委は8日に突如、10日に予定していた五輪チケット2次抽選販売の記者発表を無期延期に。理由はかたくなに開示しなかった。札幌に会場変更される可能性があればチケットが売れないのは当然だ。ただし、1次抽選では販売済み。翌9日、組織委の森喜朗会長が官邸で安倍晋三首相と会談。そこで何らかの報告があったとみられる。

日本陸連は9月、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を開催。五輪とほぼ同じコースで高温多湿という、東京五輪を想定したレースで男女2人ずつを1発選考した。しかし、比較的気温の低い札幌での開催となれば、MGCを開催した意味も薄れる。

マラソンは東京の街を世界に宣伝する絶好の機会。五輪を開催する意義として大きな要素の1つだ。東京都は約300億円をかけ、暑さ対策としてマラソンコースを含めた都道約136キロに遮熱性舗装を整備してきた。その都がどのような判断を下すかにも注目が集まる。【三須一紀】