今年も「山の妖精」が舞い上がった。5区(20・8キロ=小田原~箱根町芦ノ湖畔)で城西大の山本唯翔(4年=新潟・開志国際)が2年連続の区間新記録をマークした。
1時間9分14秒で走り、昨年自身が塗り替えた1時間10分4秒を50秒も更新した。目指した「山の神」こと今井正人(順大)の、距離変更前の05年の大記録には2秒及ばなかったものの「神にはなれなくても記憶に残る選手」になった。チームも往路史上最高の3位に躍進した。
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妖精の羽が見えるようだった。雨を感じさせない、接地時間の長い山本の足運び。コース全体の5分の4を占める坂道を、舞うように走破した。大平台のヘアピンカーブも意に介さず、鬼門も破った。昨年は小涌園を過ぎた後の15キロ手前でけいれんを起こしたが、今年はペースを上げ「一番きついところで、しっかり押せた」。昨年の自己記録を50秒上回る区間新だった。
たすきを3位で受け「こんなにいい位置で」と燃えた。2位の駒大とは2分9秒差あったが、わずか39秒差まで接近。「最後は2区を走りたい」と櫛部静二監督に直訴した時期もあったが、副将としても、最も貢献できる5区の継続を10月に決断。卒業後はスバルに入社して28年ロサンゼルス五輪のマラソン代表を目指すが「トラックと山は違う」と箱根直前の記録会も自粛。1人で山登りを重ね2年連続の区間新を遂げた。
神を目指した。コース変更前の05年、今より0・1キロ長い20・9キロで順大・今井が出した1時間9分12秒。「今井さんの記録だけ見ていた」中で、わずか2秒届かずも「神にはなれなくても、近づけて、記憶に残る選手になれた」。神の領域に最も迫った男になった。
新潟・十日町市の山間部で育ち、冬場はクロスカントリーで健脚を鍛えた。穏やかな物腰で「妖精」と監督から命名も、埼玉・坂戸の大学に近い急勾配の山で歯を食いしばった姿は似つかわしくない。最高874メートルの箱根と比べても「もっと傾斜がきつい坂を走ってきたので自信があった」。低酸素トレも活用して妖精の軽やかさを身につけた。
前日には、石川県で最大震度7の地震が発生。隣接する故郷新潟も揺れに見舞われたが「驚いたけど心配して終わりではなく、新潟県民の方々に勇気や希望を与えられたら」と神妙に快走。2年時は予選会敗退も経験した4年間の最後、チームを往路史上最高の3位に押し上げた。【木下淳】

