8月28日に放送された『24時間テレビ』（日本テレビ系列）に、元プロレスラーのアントニオ猪木さんが生出演した。車いすに乗って会場の両国国技館に現れた彼は、やせ衰え、言葉も出しづらそうだった。心臓の難病「全身性アミロイドーシス」との闘病は3年に及ぶ。深刻な病状は一目で理解できた。

「（体調は）見た通りで、その瞬間、もう必死に頑張っています。本当は起きられる状態じゃないんですが」と、彼は打ち明けた。その痛々しい姿に、正直言ってつらくなった。研ぎ澄まされた肉体と無敵の強さを誇ったリングの雄姿が、強烈に記憶に刻まれているからだ。

それでも猪木さんは闘病の様子をSNSの動画で発信し続けている。この日も公の場に堂々と出てきた。その理由についてこう語った。「あるがままだから別にいんですよ。でも、かつてのファンはがっかりしていないんです。逆の反応で手紙には『かっこいい』と。それを背負っている以上は頑張る」。

『最強』と呼ばれ、一時代を築いた男ゆえに、彼の絶望は計り知れない。現実的な苦痛も私たちの想像を超えたものだろう。それでも彼は決して戦いをやめようとはしない。病魔と格闘する静かなる闘魂に、生きざまに、胸を打たれた。猪木さんの強さの根源に触れた気がした。

「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」「苦しみの中からはい上がれ」「マイナスをプラスに変えろ」。猪木さんの金言が、次々と脳裏によみがえってきた。「猪木イズム」の根底にあるのは「どんな時でも闘う姿勢を見せること」。それはリングの中だけでなく、人生でも同じなのだ。彼はそれを今もSNSで、発信しているのだと思った。

思えばタブーに挑み続けた人生だった。ゼロからの新団体旗揚げ、柔道の五輪金メダリスト、ウィリアム・ルスカとの異種格闘技戦、現役のプロボクシング世界ヘビー級王者ムハマド・アリとの世紀の一戦。第一線を退いてからは、北朝鮮やイラクでプロレス興行を実現させた。彼に「不可能」という発想はなかった。

きっと猪木さんは、現役時代と同じように、人生でも灰になるまで闘魂を燃やし尽くすに違いない。

そういえば16年に亡くなった戦友ムハマド・アリも、後半生は進行性のパーキンソン病に冒されながらも、病に屈することなく、不自由になった体で、世界各地を行脚して平等と平和を訴え続けた。もしかしたら、最後までファイティングポーズを崩さなかったあの“永遠のライバル”の姿が、猪木さんの脳裏に焼きついているのかもしれない。【首藤正徳】