金メダルを獲得したフェヘイラ(AP)
金メダルを獲得したフェヘイラ(AP)

サーフィン初代五輪王者になったフェヘイラの「遅刻」は衝撃的だった。19年9月、宮崎・木崎浜海外で行われたワールドゲームズ。試合が始まっても、フェヘイラはビーチにいなかった。紛失したパスポートを再発行し、ぎりぎりで来日するはずが台風で飛行機が遅延。宮崎空港に着いたのは、ヒート開始時間だった。

荷物も受け取らず、車でビーチに直行。残り10分、仲間のボードを借り、デニムのまま海に入ると、2本決めて勝ち残った。その後は遅れて届いたマイボードで文字どおり波に乗った。「遅刻男」は初優勝で、初の「世界一」になった。

驚いたのは、国際サーフィン連盟(ISF)の対応だ。厳格な運営なら、試合開始時の不在だけで失格だろう。しかし、彼らは気にも止めず、何事もなかったように途中参加を認めた。相手も何も言わなかった。

悪い言い方をすれば「適当」だ。この大会のプログラムにあった試合開始と終了時間は「サンライズ(日の出)からサンセット(日没)」。目を疑った。「波の状態次第」らしいが、取材する方はたまらない。早朝に行っても「1時間後に決める」。さらに「あと1時間」そして「あと1時間」…。怒りたくもなる。

サーフィン男子で銀メダルの五十嵐カノア(撮影・井上学)
サーフィン男子で銀メダルの五十嵐カノア(撮影・井上学)

もっとも、選手は「いい波は待たなきゃ」と平然。時間の潰し方も慣れたものだ。本当に「適当」。または「自由」。他の五輪競技にはない「おおらかさ」や「遊び」が、新しい競技の魅力なのかもしれない。

東京五輪追加種目の取材では、カルチャーショックを受ける。「勝つことだけを重視しない」「何時間でも練習したい」。他競技とはメンタリティーが違う。小さいころから金メダルを目指して、厳しい練習に耐えてきた選手とは真逆だった。

決勝の五十嵐は、なかなか波に乗らなかった。いい波が来なくても、少しでも得点しておけばと思った。ただ、彼らは「得点するためだけに小さな波に乗る」のは嫌なのだ。波を選び、ベストなパフォーマンスをみせる。ファンを魅了し、感動させる一発にこそ価値がある。

スケートボードも「ナンバー1よりオンリー1」のようだ。選手は「誰もできない、やばいトリック」を目指す。簡単なトリックを確実に決めて少しでも点を出しておけばいいのにとも思う。しかし、勝つことに固執せず、常に大技を狙った。西村やヒューストンらのスタイルは潔い。仲間に認められ、尊敬される。

確かに従来の五輪競技とは別ものだ。柔道の大野は「命懸け」だったが、西矢はあらいぐまラスカルの話をしながら金メダルを獲得した。「これが五輪か」という声も分かるが「これも五輪」なのだ。IOCの思惑通りに、五輪に新しい価値が加わったのは間違いない。

新競技の取材で、30年の記者生活で培った五輪への価値観は崩壊した。いや、選手たちが壊してくれた。頭の固くなった古い記者に新しいものの見方、考え方を教えてくれた選手に感謝したい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

金メダルのフェヘイラは表彰式で宙返りを披露する(AP)
金メダルのフェヘイラは表彰式で宙返りを披露する(AP)