バドミントンの桃田が敗退した。耳を疑った。世界ランク1位で金メダル最有力候補。昨年末には「圧倒的に強くなりたい。東京五輪で金メダルをとって、感謝の気持ちを表したい」と話していた。それが、まさか1次リーグで…。金メダルを期待していたし、とると思っていたので寂しい。

競泳の金メダル候補、瀬戸が大本命の男子400メートル個人メドレーで予選落ち。体操の内村は1種目に絞って挑戦していた鉄棒で落下した。そして、開会式で聖火点火者となったテニスの大坂なおみも、まさかの敗退。「東京の顔」が次々と大会を去った(瀬戸はまだ種目が残っているが)。

大会前に多くの人に期待され、その声に応えているのは阿部兄妹の柔道くらいか。1人で戦う個人種目での「波乱」が目立つ。競泳個人メドレーの絶対女王、ホッスーが2種目で表彰台を逃すなど各国ともに苦しんではいるが、思い入れが強いせいか日本人有力選手の「まさか」が目立つ。

やはり、延期による1年は大きかったのか。金メダル獲得を期待されるのは、いずれも実績のある選手たち。前回の五輪や世界選手権で好成績をあげるなど名前も顔も知られた「ベテラン」が少なくない。体力面だけを考えても、1年キープするのは難しい。なかなか向上は望めない。

さらに大きいのはメンタルの疲弊だ。五輪前になると、有力選手への注目度は増す。地元大会ならなおさら、相当なプレッシャーになったはずだ。ファンやメディアに追い掛けられる時間が、単純に1年延びた。

それだけならまだ良かったが、今回は新型コロナという未知のウイルスも出てきた。開催の是非まで問われる中、選手たちの心は揺れる。それでも、彼らは選手を代表し、競技を代表しての発信を求められる。それが、どれだけの負担だったかは想像もできない。

4年周期で体を作ったきた選手にとっては、ここに合わせるのも難しかったかも。仮に昨年行われていれば桃田の金メダルは確実に近かった。瀬戸も金メダルをとれたはずだ。選手にとって1年は長く、厳しいと思わざるをえない。

ただ、逆に短期間で急成長する若手には、1年の延長はプラス。20年大会には「間に合わない」はずだった選手が「間に合う」。大会がなく勢力図が変わったことに気が付きにくいが、多くの競技で若手の力が伸び、ベテランを上回ったのは間違いない。体操の10代コンビも、この1年で成長して世界に飛び出した。

4年に1度の五輪に慣れているから「5年」には、まだ違和感がある。新型コロナの影響だから仕方ないが、やはり五輪らしくはない。選手でもないのにそう思うのだから、スケボーやサーフィンなど初顔は別にして、選手たちの体が簡単に「5年」に慣れるとは思えない。次は3年後だ。

ただ、まだ大会は始まったばかり。「波乱」は、これからも起きそうだ。有力選手が敗れることがあるかもしれない。それでも、新しいヒーローやヒロインが誕生するのは楽しみ。「5年」を受け入れて大会を満喫したい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)

女子シングルス3回戦で敗れた大坂なおみ(共同)
女子シングルス3回戦で敗れた大坂なおみ(共同)