どこまでも澄み切った青空を、ぼんやりと眺めていた。遅咲きのツアー初勝利を逃した貞方章男(40)は、現実を受け入れることができないように見えた。報道陣の質問を受けても、遠くを見ながら応じていた。後悔と空虚感。そして、いつまでも手にすることができない勝利への絶望感。複雑な感情に、胸を締め付けられているようだった。
「ボールに土が付いていて、風もありましたから。優勝争いの中でのあのショットは…。普通には打つことができなかった。なんせ、昨年は賞金ゼロですから」
5月5日。名古屋ゴルフ倶楽部和合コース(パー70)で開催された中日クラウンズ最終日。復活を目指すベテラン宮本勝昌、昨季賞金王の今平周吾らと、激しい優勝争いを繰り広げた。
1打差を追う17番パー3で、貞方は8メートルのバーディーパットを沈める。土壇場で通算8アンダーとし、首位に3人が並んだ。そして迎えた最終18番パー4。ティーショットが右ラフへ。土が付いたまま打った第2打は、グリーン手前に落ちた。第3打はランの多いハーフトップ気味で奥にこぼれ、4オン2パットのダブルボギー。「最後にわなにはまってしまった。ただ、悔しいです」。手の届くところにあった初のツアー優勝は遠く離れ、最後の最後で5位に転落した。
14歳で生まれ育った奈良を離れて単身渡米し、フロリダ州のアカデミーにゴルフ留学した。アマチュア時代はオールアメリカンに選出され、米ツアーを経て、08年から国内ツアーに本格参戦。15年まで4年連続で賞金シード権を守ったが、優勝には縁がなく、ついには、昨年は1円も稼げなかった。
3児の父で「よく、子供たちに『頑張って勝ってきて』と言われるのですが、そんなに簡単には勝てないんだよ、と言うんです」と明かしたこともある。“最後の1ホール”で優勝を逃した最終日は、こどもの日だった。だからこそ、いつまでも悔しさが脳裏から離れなかった。
極度の緊張感との戦いだった。これは、優勝した宮本が会見で明かしたものである。
「一緒に回っていた貞方が、まあ、落ち着いてプレーしているわけですよ。うらやましいな、と思っていた。でも、18番で一緒に歩いていると、こんなことを言うんです。『50センチのパットが、1メートルに感じるんです』と。緊張していたんですね。でも、彼は今年、優勝のチャンスが、何回もありそうですよ」
ホールアウトからしばらく時間が過ぎ、報道陣の取材も終盤に差し掛かった頃だった。貞方の横を、優勝を争い、2位に終わった今平が通り過ぎようとした。すると、宮本が最終18番で優勝を決めた10メートルの長いバーディーパットを沈めた場面について、貞方はこう切り出した。その言葉は、いつまでも消えない後悔を、振り払うかのようでもあった。
「最後の宮本さん。あれ、すごかったよ。俺、鳥肌が立った」
次の瞬間、貞方と今平は、固い握手を交わした。
いつかまた、優勝を争い、今度こそ初優勝をつかみたい-。その場面を見ていると、そんな決意が込められているような気がした。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)



