渋野日向子(21=サントリー)の現在地を知るのに象徴的なシーンがあった。全米女子プロ選手権第3日の10番パー4。ペンシルベニア州アロニミンクGCでその日の難易度1位のホールで、渋野は「ダブルパー」の8をたたき、最下位に沈んだ。

第1打をラフに入れ、そこから池越えのピンを直接狙ったが池ポチャ。第4打もピンをねらい、ボールが狙い通りピン近くに落ちたが、そこから傾斜でズルズル滑り落ち、結局グリーンの一番手前のピンから約25メートルまで戻された。第5打のボギーパットもピンに届かず、再びズルズル滑り落ちる。第6打でピン2メートルにつけたが、それも入らなかった。

同じ10番で、最終的に3位に入った畑岡奈紗(21=アビームコンサルティング)が、スーパーアプローチを披露した。第2打をグリーン右のラフに打ち込み、こちらも20メートル以上を残した第3打。ユーティリティーでピン奥の傾斜を利用してボールを転がし、見事にピン50センチに寄せ、パーをセーブした。グリーンの傾斜に苦しんだ渋野と、傾斜を利用した畑岡。2人の違いは、ピンを攻める戦略にあったと思う。

全米女子プロ選手権で、渋野のショットは悪くなかった。ティーショットはフェアウエーをキープし、アプローチもチャンスにつくことがたびたびあった。しかし、2~3メートルのパットが入らない。「ラインが読めなかった」と何度も口にしたが、それだけではないと思う。ピンをねらってボールを落とす位置が、ピンに向かって下りラインであったり、近くてもアンジュレーションがあったりと、難しいパッティングを要する場合が多かったのだ。

一方、畑岡はピンから遠くても、安全な場所にボールを落としたり、外れてもボギーにはなりにくい場所に着実にボールを落としていた。それが最終日の64という猛チャージにつながった。

畑岡はナショナルチーム時代から師事するガレス・ジョーンズ同ヘッドコーチ(オーストラリア)の指導を受け、戦略的なゴルフを身に着けている。大会前の練習ラウンドで、グリーンを入念にチェックし、カップまで平たんなラインでパッティングができる「ゼロライン」を、カップの位置を想定していくつもみつけメモに書き付ける。それを18ホールつくり上げる準備を整えてから大会に臨んでいる。

海外での経験豊富なジョーンズ氏と出会い、グリーン周りの練習を重点的に行い、米国で戦うノウハウ教わり、それに4年の経験が加わった。今も、スマホに数十項目もチェックポイントをジョーンズ氏から送ってもらい、それにデータを打ち込む形で、技術、体力、精神状態などのチェックを受けている。

約2カ月、6試合の海外遠征の中で、渋野が感じたことは、間違いなく将来の財産になる。アロニミンクGC10番の挫折が、飛躍の原点になるかもしれない。将来米国で戦うために自分や、自分の周りのスタッフ、チーム渋野に足りないものを、どう感じて次に生かすか。この日から始まった日本ツアーや、オフシーズンの取り組みに注目したい。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)