東京五輪の男子ゴルフが終わった。各選手がさまざまな思いを抱えながらメダルを目指して戦う姿を見て、今後のゴルフ界における五輪の重要度が増してくる可能性を感じた。

体調が万全でない中で奮闘した松山英樹の姿はもちろん、ここぞという場面でみせるコリン・モリカワのベタピンショットや、最終18番のバーディーパットを外し、膝に手を突いて悔しがるロリー・マキロイの姿。銅メダルをめぐってもつれた7人でのプレーオフ。松山やモリカワらメジャー覇者を押しのけて潘政■(■は王ヘンに宗)(台湾)が銅メダルを勝ち取った結末にもドラマがあった。

今回の戦いを見て、「1度は五輪に出てみたい」と思った選手も多いのではないだろうか。個人的に最も印象に残ったのは、スロバキアのサバティーニが最終日の18番でバーディーパットを決めてみせたガッツポーズだった。61というスコアをたたき出し、一気にまくって2位で銀メダルを獲得。まだ優勝を争うライバルたちが数ホールを残す段階で、何かを確信したかのように拳をあげ、キャディーを務めた妻と喜び合う姿は印象的だった。

もともとサバティーニは南アフリカ出身。スロバキアのゴルフ界を盛り上げるため、19年に妻と同じ同国の国籍を取得。試合後は「このコースで10アンダーを出せるとは思っていなかった」と驚きながらも「ここでメダルを獲得することがスロバキアのゴルフ界、特にジュニアゴルファーの育成に良い影響を与えられることを願っている」と語った。

ゴルフは第2回大会の1900年パリ五輪と第3回の1904年セントルイス五輪で開催されて以降は長らく競技から除外され、2016年リオデジャネイロ五輪で112年ぶりに復活。今の選手たちは五輪で開催されるゴルフを見て育っていないため、大会の価値を見いだせない選手がいるのも不思議ではない。だが、今大会で分かったように、母国のため、家族のためにメダル獲得を目指す選手がいることも確かだ。優勝したシャウフェレ(米国)も、交通事故で陸上十種競技の五輪選手への道を断念した父への思いを明かしており、金メダル獲得後、「父のために勝ちたかった。言葉が出ません」と感無量の思いを語っていた。

やはり五輪の影響力は大きい。日本でも男子ゴルフはNHKと民放で同時に長時間放映される日があり、普段ゴルフを見ない視聴者にもその魅力は届いたはずだ。新競技のスケートボードやサーフィンが注目されたように、まだ競技復帰間もないゴルフも、五輪効果でさらに人気が押し上げられる可能性もある。

4日からは女子ゴルフが始まる。男子以上に世界ランキング上位選手が軒並み名を連ねており、ハイレベルな戦いが予想される。日本からも実力的には遜色ない畑岡奈紗と稲見萌寧が出場する。男子で惜しくもかなわなかったメダル獲得を果たし、最高の形で締めくくれることを期待しながら応援したい。【松尾幸之介】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

ザンダー・シャウフェレ(右)と松山英樹(2021年8月1日撮影)
ザンダー・シャウフェレ(右)と松山英樹(2021年8月1日撮影)