渋野日向子(22=サントリー)の復活優勝は、2019年に挙げた日米5勝とは、明確な違いがあった。10日まで行われた国内女子ツアーのスタンレー・レディースで、渋野のパートナーを務めたのは、28歳の女性のハウスキャディーだった。過去の5勝は、プロキャディーか、コーチとタッグを組んでつかんだもの。今大会、ハウスキャディーに助言を求めたのは、そのホール特有の吹き方など、風に関することぐらいだった。ピンまでの残り距離、グリーン上のライン読み、何よりもどう攻略するか-。あとは全て、自分で考えてプレーした。

ハウスキャディーは、普段から試合会場となるゴルフ場で働いているケースが多い。だからこそ、風などその土地特有のことは、むしろプロキャディーよりも知識があることもある。ただ、経験や戦略など、引き出しの多さでは、やはりプロキャディーに分がある。プロ同士で組んだ方が、選手もプレーだけに集中できる。精神的な負荷が軽減されるのは事実だ。

それでも渋野は、ハウスキャディーと組むことを選んだ。7月の楽天スーパー・レディース以来、メジャーのAIG全英女子オープンを含め、6戦ぶりだった。7月の時は、ハウスキャディーとはいえ知人で、食事にも行く間柄だった。その前は6月のメジャー、全米女子プロ選手権。帯同していた日本人プロキャディーが新型コロナウイルスに感染し、第3ラウンドから急きょ、現地の黒人男性ハウスキャディーと2日間を戦っていた。昨年以降、その2戦以外にハウスキャディーと組んで試合に臨んだケースはない。開幕前、渋野はその狙いについて「今週は自分自身で。自分で考えてやらないといけないけど、すごく勉強になる」と話していた。

「自分自身で」と、あえてプロキャディーの力を借りなかったのは、来年以降を見据えた挑戦だった。全米女子プロ選手権では、最終日こそ黒人男性のユスフ・ワジールディン氏が、持ち前の明るさで盛り上げたが、第3日は日本語と英語、互いの言葉が分からず意思疎通できなかった。スコアも伸びず、ぎくしゃくしていた。来年は米国を主戦場に移すことを計画しているだけに、その時と同様、アクシデントに見舞われた際に、自力で戦い抜ける自信、経験がほしかった。

渋野は11月29日から始まる、来年の米女子ツアー出場権をかけた予選会(Qスクール)に参加予定だ。そこでもしも、上位20人ほどに入らなければ、下部のシメトラツアーに回る。すでに、そうなった場合でも、米国を主戦場としたい意向を示しているが、下部ツアーは優勝しても賞金が300万円前後。日本からキャディーを呼び、その往復航空券代、米国滞在中のホテル代、報酬などを支払うと、優勝し続けないと赤字は必至という厳しい状況だ。だが優勝し続けることなど、いくら下部ツアーでも不可能といえる。

だからこそ、他の多くの米下部ツアーの選手と同様、自らバッグを担いでラウンドする可能性も視野に入れ、今大会の試みとなった。優勝会見で、渋野は1人で戦い抜いたことについて、まるで自慢することもなく普通のこととして話した。

「たしかに自分で考えながらやった、というのはあるんですけど、今までとやってきたことは同じです。それを今回も1打1打、いろいろ考えながらやっただけ。それが今回はうまくいったのかな、という感じです。自分でイメージしたものと誤差が少なかった分、こうやってバーディーを取れたと思いますし、思い切って振れるようになったのもあると思う。この3日間で、前半のパー5(2ホール)で3回ぐらい2オンできた。それだけ飛距離にも自信というか、振ることに対して怖さはなくなりました。それはアイアンショットも一緒です」。

淡々と話す様子に、かえって、手にした自信の大きさがうかがえた。キャディー不在で下部ツアーからでも、はい上がる-。今回の復活優勝の裏に、来年以降、米国で戦い抜く覚悟と、決意を見た気がした。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)