「その時」は、いつになるか分からない。来年かもしれないし、10年後かもしれない。もしかしたら訪れない可能性だってある。ただ、今回ほど使命感に駆られて原稿を書いたことはない。そう思わされたのは、メジャー初出場となったマスターズに挑んだ、日体大主将の中島啓太(21)が、涙を流して悔しがる姿を目の前で見たからだ。現在、アマチュア世界ランキング1位の逸材が、いつかメジャーを制する時が来たら-。10日に閉幕した今回のマスターズで見せた涙や言葉、様子は、形として残しておかなければ。テレビにも映し出されていない姿を、語り継がなくてはと強く感じた。
中島のメジャー、そしてマスターズ初挑戦は、わずか2日間で終わった。世界屈指の名門、米ジョージア州オーガスタ・ナショナルGCの壁は、果てしなく高かった。第1ラウンド(R)は、イーブンパーの72で19位と上々のスタート。だが第2Rはバーディーなし、5ボギー、1ダブルボギーの79と7つ落とし回り、通算7オーバー、151。第2Rを同じ19位でスタートした松山英樹が、2位まで順位を上げたのとは対照的に64位と、予選落ちに終わった。
神に祈るほどの難しさから「アーメンコーナー」と呼ばれる11~13番の中でも“最難関”とされる、12番パー3でダブルボギーをたたいた。マスターズ5度優勝と、コースを知り尽くした、あのタイガー・ウッズ(米国)でも、20年に10打の大たたきをした難ホールだ。8番アイアンで放ったティーショットは、グリーンを越えて、生け垣のような茂みの中央に入り込んだ。アンプレアブルを宣言して1打加え、鋭い傾斜から放った第3打のアプローチは、グリーンまでは届かず。パターで2打を要した。
中島 「10番、11番ともにピンチを耐えて、警戒はしていたんですけど…。あのティーショットは、持った番手(クラブ)も、全然後悔していない。ほんの少しのミスが、ああいうダブルボギーになってしまうのが、このコースだと思います。ちょっと強く入ってしまったんですけど、9番で打つというアイデアはなかったですし、後悔はしていないです」。
そう絞り出しながら語った時の中島は、それまでよりも大粒の涙を流していた。昨年9月、国内ツアーのパナソニック・オープンで、倉本昌弘、石川遼、松山英樹、金谷拓実に次ぐ、史上5人目のアマチュア優勝を達成した。小手先の技術に走ることなく、パー3以外は常に、ティーショットでドライバーを握る、スケールの大きなゴルフは、見る者を魅了する。大器を予感せずにはいられない。
アマチュア優勝を飾った時も涙で「すぐ泣いちゃうんです。勝っても負けても」と話していた。感情の起伏を隠さない表裏のない性格。さらに低音の美声に端正なマスクと、スターの要素を挙げたらキリがない。世界も放っておくわけがなく、すでに今年1月、タイガー・ウッズ(米国)と同じ、米国の大手マネジメント会社「エクセル・スポーツ・マネジメント」と契約。NBAやMLB、NFLの一流選手を数多く抱える同社が、アマチュアゴルファーとマネジメント契約するのは異例中の異例だという。
ただ、中島の最大の能力は、周囲を自然と巻き込むことができるところかもしれない。中島の口癖は「チームのために」。ゴルフという個人競技だが、攻略法を授けてくれたガレス・ジョーンズ・ヘッドコーチや、キャディーをしてくれたクレイグ・ビショップ・コーチら、ナショナルチームの指導陣がマスターズ会場でも徹底サポート。他にも日本ゴルフ協会のスタッフやトレーナー、専属シェフらも同行。支えてくれることに感謝し、スポンジのように吸収するから、支えがいがあるのかもしれない。
日体大ゴルフ部の江原清浩監督も、喜々としてオーガスタ・ナショナルGCでの2日間、36ホールを一緒に回った1人だった。その江原監督は、当初は負担が増えるため、主将ではなく副主将にする考えがあったと明かす。それでも「私もそうですが、何よりも部員が『やっぱり啓太しかいない』と言うんです。責任感の強い男ですし、啓太のもとでなら一致団結すると思い指名しました」と、考えを変えた。さらに「こちら(オーガスタ)に入る前まで大学の合宿をしていたんですが、宿の手配から合宿中の仕切りまで、全て啓太がやっていました」とも明かした。だからこそ“中島のために”という人が、自然と集まるのかもしれない。
決勝ラウンドの2日間も会場に足を運んだ。あこがれの松山英樹のプレーを目に焼き付けようと、子どものように目を輝かせて最前列に陣取り、コースをついて回った。最終Rの17番では、運命的な出会いもあった。偶然居合わせた、PGA(米男子ツアー)のジェイ・モナハン会長と初めて顔を合わせた。将来のPGAを支えるかもしれない中島を、モナハン会長も笑顔で迎えた。これもモナハン会長に気付いた周囲が、気を利かせたもの。導かれるように、夢である将来の米ツアー進出への足場が固められていく。
だからこそ第2Rのホールアウト後、今回のマスターズの経験は、けっして忘れないと誓っていた。
中島 「本当に難しくて…。チャンスをつくりたくても、それもさせてくれないようなコンディション。悔しい思いしかないです。(第2Rは)最初からすごいつらかった。緊張感は(第1Rと)そんなに変わらなかったですが、つらくて…。『こんなに難しいんだ』と思いました。心技体ともに、全部がもっとレベルアップしないとダメ。ただ、やってきた準備は完璧だと思う。みんなを信じて来ることができました。まだまだ『挑戦』は始まったばかり。この悔しい思いというのが、1番の収穫になると思います」。
6月に全米オープン、7月には全英オープンと、今年だけでまだ2大会、出場権を持つメジャーが残っている。アマチュア世界一から、真の世界一へ挑戦。それを決意した分岐点として、いつの日か、今大会のことを振り返る時が来るかもしれない。そう思い始めた私も、いつの間にか巻き込まれ、中島の将来を楽しみにしている1人なのだろう。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)


