新しい年が明けた。ゴルフ界は昨年は昨年でいろいろありました。男子は蝉川泰果がアマチュアで日本オープンに優勝したり、女子は新世紀世代より若い川崎春花、尾関彩美悠がツアー優勝したり…。「えっ?」と思う意外性がスポーツのおもしろさの1つだが、今年最も期待するのは、意外でもなんでもないこと。勝みなみ(24=明治安田生命)の米ツアーでの活躍だ。

14年4月、KKT杯バンテリンレディースをツアー史上最年少の「15歳293日」で制してから8年以上たった。中学を卒業したばかりで、優勝翌日に鹿児島高に初登校した少女も24歳。後に「黄金世代」と呼ばれる98年度生まれのトップランナーは昔から「独特な人」だったと思う。

バンテリンで勝った時「六甲おろしを歌いながら、回ってました」と言ってみたり、最終日最終18番で、結果的に1打差Vとなる下り2・5メートルのスライスラインを緊張もせず、さらっと沈めて見せた。

コーチはいない。基本的に我流のゴルフだ。珍しいテンフィンガー、いわゆる「ベースボールグリップ」は中学時代の体育の授業中、バスケットボールで左手人さし指を骨折し、治らぬまま九州ジュニアに出場して「どうやったら痛くないだろう」と自分なりに握りを考えて優勝した。それが、今のテンフィンガーだ。

昨年12月の米ツアーQシリーズは、母久美さんと2人で挑んだ。通訳なし。現地のアテンドなし。渡米前「英語しゃべれる?」と聞くと「う~ん、何とかなるでしょ」と苦笑いでケロッとしていた。現地でレンタカー運転手、キャディーを務めた久美さんも「いやあ大丈夫かなあ」と笑っていたので「ほんまに大丈夫か?」と案じたが、見事5位で今季前半戦フル参戦を手にした。とんでもない楽観的な親子だ。

昨季最終戦のJLPGAツアー選手権リコーカップ開幕前、今年の漢字を聞いたら「迷」と答えた。「スイングでずっといろいろ考えてきて、試して、なのに結果が出なくて。それで夏に迷うのを止めて“自分で1番振りやすいスイングで振ろう”と決めて。だから“迷”です」-。

その“迷うのを止める”という思考を後押ししたのは、アントニオ猪木さんだったという。昨年10月1日に猪木さんは他界した。プロレス好きの勝は、猪木ファンだった久美さんにいろいろ逸話を聞いて、感銘を受けたらしい。

「猪木さんの『道』っていう詩、あるじゃないですか? あれってすごい。猪木さんも子どもの頃にブラジルに渡って、1人で日本に帰ってきて、大変な苦労をして…。猪木さんがいうからこそ、あの詩が胸に響くんだろうなと思うんです」

24歳の女性で、猪木さん関連で「ブラジル」が出てくるのはなかなかだ。

「いろいろ見ましたから、新日本プロレスのホームページで。猪木さんの黒のパンツも、アレなんですよね」。ニュアンス的に、アレは「ストロングスタイルの象徴」ってことで、正解です。厳密には「黒のショートタイツ」と言ってほしいところだが、そこまで知っていることに驚いた。

勝の22年のスタッツで目を引くのは、パーオンホールの平均パット数1位とドライビング・ディスタンス4位。反比例しがちな2部門がそろって5位以内なんてプロは他にいない。

技術も感性も、凡人と違う「独特な人」は、この原稿がアップされる1月4日、新日本プロレス恒例の1・4東京ドーム大会を“プロレス仲間”の小祝さくらと生観戦するはずだ。

迷わず行けよ、行けばわかるさ-。その心意気で、米ツアーでとんでもないことをやらかして欲しい。そう思っている。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)