19年女子プロゴルフの賞金女王、鈴木愛(26=セールスフォース)は、ゴルフを始めたころ「日本一練習が嫌いな女の子」だった。それでもコーチや両親の励ましを受けてプロテストに合格。17年に初の賞金女王を取ると、昨年は年間7勝という圧倒的な強さで2度目のタイトルを手にした。そんな鈴木が、ジュニア時代からここまでの道のりを語った。

鈴木は小学5年の11歳からゴルフを始めた。1つ年下の妹花奈さんが、先に始めていたこともあり、たまたまテレビでみたサントリー・レディースでの宮里藍の活躍も刺激になったという。

「初めはプロになろうとは思っていなくて、嫌々やっている感じでした。一緒にやっていた妹が私よりうまくて、周りの人からも妹の方が持ち上げられていて。特に始めて1、2年間は毎日やめたいと思っていて、ゴルフ場の人たちから『そんなこと言わないでやろうよ。愛ちゃんはセンスあるんだから』となぐさめられていたんです。当時は、バレーボールもやっていて、私はどちらかというと、バレーボールの選手になりたかったんです」

嫌々やっていたころは、練習にも真剣に取り組めなかった。母の美江さんから300球打つように言われても、100球打つと「もう無理」とやめてしまった。そんな鈴木を変えたのが、当時のコーチの「愛は才能があるんだから、練習をやった方がいい」という言葉だった。

「あの言葉がかなり大きかった。言われていなかったら、すぐにやめていた」

中学2年までは、なかなか結果が出なかったが、コーチの言葉を胸に練習に励んでいた。すると、中学3年のときに四国女子アマチュアゴルフ選手権で優勝。ほかにも複数の大会で優勝し、初めてプロになることを意識した。高校は、当時ゴルフ部を新設した鳥取県の倉吉北高に進学。徳島で製材店を営んでいた父親が、稼業をたたみ、一家6人で鳥取に移住。父親はゴルフ場でアルバイトをしながら、母親は高校の食堂で働きながら、鈴木のプロへの道を応援した。

「当時は、私と妹がプロを目指していたんですが、もし2人ともプロになれなかったらと考えましたね。私たちのために両親がお金をすごく使って、ゴルファーにならせようとやってくれました。なれなかったら、普通に働いて、何年かかってお金を返せるだろうと考えたこともありました。とにかく、どっちかがプロにならないといけないという思いでいっぱいでした」

両親の応援もあり、鈴木は13年のプロテストに3位で合格。14年9月の日本女子プロゴルフ選手権で、ツアー初勝利を挙げた。当時、20歳128日で宮里藍の持つ21歳83日を抜いて、同大会の史上最年少初優勝という記録もつくった。17年には年間2勝で初の賞金女王。そして19年には年間7勝という圧倒的な強さで2度目の賞金女王に輝いた。その強さの秘密はどこにあるのか。

「負けず嫌いなのが、人より強いところだと思います。それがなかったら、ここまで来ることはできなかった。もともと、すごく練習が嫌いなのですが、人に負けたくない一心で、練習もここまでやってきました」

美江さんも「年の離れた弟とトランプをやっても、何が何でも勝たないと気が済まない」と鈴木の負けず嫌いを証言した。昨年、賞金女王が決まった最終戦の会見で「私がゴルフを始めた徳島で、最初はプロになんかなれないと、周りの人たちに言われていた。それを見返してやりたかった」と話した。そんなところでも鈴木は負けず嫌いをのぞかせた。最後に、ジュニア年代へのメッセージを聞いた。

「私もそうですが、両親とかに練習をやれと言われても、本人がやると思わなければうまくはならない。去年とかも感じたことですが、自分でうまくいかないところがありながらも練習して、自分がうまくいかないと思ったら、絶対にうまくいかない。うまくいくと思いながらやることが大事なんです。やるからには絶対プロになる、うまくなると思ってやること。そういう気持ちがある選手がすごく伸びるのかなと思います」

【取材・構成=桝田朗】

◆鈴木愛(すずき・あい)1994年(平6)5月9日生まれ、徳島県三好郡東みよし町出身。11歳からゴルフを始め、09年に中学生で四国女子アマチュアゴルフ選手権で優勝し、プロゴルファーを志す。高校は鳥取・倉吉北高に進学。13年プロテストに合格し、その年の下部ツアー大会で優勝。14年9月の国内メジャー、日本女子プロゴルフ選手権で初優勝。17年に年間2勝で初の賞金女王を獲得。19年には7勝を挙げ、2度目の賞金女王に輝いた。プロ通算16勝。155センチ、55キロ。