<高校総体:競泳>◇17日◇男女個人◇新潟・長岡市ダイエープロビスフェニックスプール

 北島2世の山口観弘(17=志布志高)が、仰天記録をマークした。山口は男子200メートル平泳ぎ決勝で2分7秒84の高校新記録を樹立。北島康介(29)の日本記録に0秒33と迫る大記録で、高速水着が禁止されて以来世界で3人目の7秒台スイマーになった。4月の日本選手権3位でロンドン五輪出場は逃したが、銅メダルの立石諒(23)を0秒5近く上回るタイムで来夏の世界選手権(バルセロナ)での金メダル獲得と世界新樹立を宣言した。

 ラスト50メートル、山口はグイグイ加速した。1かきごとに、2位以下が遠くなる。ラスト10メートル、沸いていた場内が静まり返る。タッチした瞬間、スタンドの目が電光掲示板へ向いた。2分7秒84。驚くべき数字に観客が爆発した。4年後のリオ五輪へ誕生した新しいヒーローは、大きく両手を広げて雄たけびをあげた。

 「予定よりも速くて、びっくりした。自分の成長を自分で確認できた」。目標は自らの持つ高校記録2分9秒22の更新と北島、立石に次ぐ8秒台だった。「出す自信はあった。でも、まさか7秒台が出るとは。タッチ板が壊れているのかと思った」とおどけた。10年に高速水着が禁止されて以来、誰もがぶち当たった8秒の壁。ロンドン五輪で金のジュルタと銀のジェーミソンが一気に破ったが、山口は「記録が出ない」といわれる高校の大会で、しかも独泳で破ってみせた。

 驚異的だったのは、ラスト50メートルの速さ。五輪決勝舞台でも32秒台で泳いだのは1人だけ。最も疲れがくる最後を、山口は32秒42でクリア。ラストのスピードだけなら、間違いなく世界最速だ。「これで世界に近づけた。今度は世界で勝ちたい」と言ってのけた。

 今年4月の日本選手権、日本水連の設定した派遣標準記録を切りながら、北島、立石に次ぐ3位で五輪出場を逃した。「ずっとロンドンでメダルを狙っていたから。つらかったし、弱気にもなった」。しかし、本来が前向きな性格。「まだ若いから大丈夫」と1日練習を休んだだけでプールに戻り、この大会を目指してきた。志布志DCの大脇雄三コーチ(61)に言われたのは「五輪優勝タイムを上回る記録を出せ」だった。

 ロンドン五輪の平泳ぎは「自分が出ていたら、どういうレースでジュルタに勝つかイメージしながら見ていた」という。「日本記録まで0秒3、世界記録まで0秒6。来年の世界選手権ではジュルタと世界新の争いをして、金メダルをとりたい」と、リオ五輪を3年前倒しにしての王座獲得を誓った。

 現在鹿児島・志布志高3年生、来春の卒業後は東洋大に進学し、北島を育て、現在は同大のコーチを務める平井伯昌氏から本格的な指導を受ける。「最終的には5秒台を」。日本水泳界に現れたニュースターの目は、北島や立石を飛び越えて、世界を見つめている。【荻島弘一】