陸上機能を取り外さなければならない理由として、新国立の徒歩圏内に、常設サブトラックを建設できないことがある。五輪時は明治神宮外苑の軟式球場に仮設トラックを整備するが、明治神宮外苑は、これまで利用してきた一般客のために大会後の早期撤去を求めている。都景観計画でも建築物に関する厳しい制約がある。常設のサブトラックがなければ世界陸上などの国際大会だけでなく、大きな国内大会も開けない。

 トラックがあることで観客席からピッチまでの距離が遠くなり、サッカーなどの球技の臨場感を損なうよりも、トラックの分、観客席を6万8000席から8万席に増席することで、収益性を高めたい狙い。

 もう1つは、陸上競技に多くの集客が見込めないこと。スポーツ関係者の中でも、新国立のような大規模スタジアムはそぐわないとの見方が強い。大会後は、陸上より高い収益性が見込めるサッカーやラグビーを行う球技専用スタジアムとして生まれ変わらせ、コンサートなどのイベントも行うことで毎年の収支を黒字にする考えだ。

 一方で、陸上界にも配慮する。日本陸上連盟は五輪後に世界陸上などの国際大会を首都東京で開催したい意向を持つ。そのため、都が所有する味の素スタジアムや駒沢陸上競技場を、国際陸上大会が開けるように整備する検討を始める。現状、味スタにはサブトラックがあるが、駒沢にはない。整備が実現すれば、世界陸上などを誘致することは可能になり、新たな日本陸上界の聖地が誕生する。